研究課題/領域番号 |
26670151
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
牛込 剛史 群馬大学, 生体調節研究所, 技術職員 (60529551)
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研究分担者 |
松永 耕一 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (20570162)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / インスリン分泌 |
研究実績の概要 |
糖尿病は人類が抱える最も深刻な疾患の一つである。β細胞に直接作用し、分泌を促す糖尿病治療薬として様々なものが開発されているが、深刻な低血糖状態になる場合や、膵β細胞の疲弊や細胞死を早めてしまう等の副作用が懸念され、細胞の状態を良好に保ち、分泌をコントロールできるような新規薬剤の開発が望まれる。ラット膵β細胞株INS1を用い、グルコース応答性のインスリン分泌をハイスループットに計測することの出来るシステムを開発した。これを用いて、理化学研究所の約25000種類の化合物ライブラリから、インスリン分泌に直接影響のある化合物のスクリーニング解析を行った。その結果、インスリン分泌に強い影響のある18種類の化合物を同定した。その中から特に強くインスリン分泌が促進される一つの化合物(化合物Xとする)について実験を進めた。マウスから取り出した膵島について、グルコース刺激と共に化合物Xを加え、インスリン分泌量を測定したところ、加えないものと比べて約1.5倍の分泌量増加が確認された。さらに化合物Xの分泌増強効果の分子メカニズムを調べるために,これと相互作用する細胞内成分の探索を試みた。すなわち化合物Xを共有結合させたアガロースビーズを作成し、そこにβ細胞の抽出液を加えることによるプルダウン解析を行ったところ、化合物Xに特異的に結合するたんぱく質成分が確認された。質量分析装置によりたんぱく質同定を行ったところ、ミトコンドリアにおいて機能するたんぱく質を同定した。グルコース刺激によるインスリン分泌過程にミトコンドリアは重要な働きを担っており、この同定されたたんぱく質を解析中である。他の17種類の候補化合物でも、インスリン分泌において促進および阻害を示し、特に阻害物質はほぼ完全に阻害することがわかり、これを手がかりにインスリン分泌の分子メカニズムにおいて未解明の部分が明らかになる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前回の報告により、インスリン分泌促進化合物Xにおける解析は、ターゲットタンパク質の候補群の同定までに至っており、現在分子メカニズムを解析中である。さらに残りの17種類の候補化合物のうち阻害化合物に着目し、解析を進めた。阻害化合物においてはほぼ完全にインスリン分泌を阻害し、これを手がかりにインスリン分泌の未解明のメカニズムを明らかにできる可能性がある。これら化合物のターゲット分子を調べるために,これと相互作用する細胞内成分の探索を試みた。すなわち化合物Xのときと同様に、化合物を共有結合させたアガロースビーズを作成し、そこにβ細胞の抽出液を加えることによるプルダウン解析を行った。するとこれら化合物に特異的に結合するたんぱく質成分が確認された。現在質量分析装置によりたんぱく質同定を行っている。 これまでの研究において、スクリーニング解析は既に完了し、新規のインスリン分泌促進/阻害化合物を18種類同定した。促進化合物Xにおいては、細胞内ターゲットたんぱく質の同定にも既に成功しており、加えてex vivoでの分泌促進効果も確認できた。さらに阻害化合物にも着目し、それらのターゲット分子同定にも迫っている。これは当初の研究計画の多くを既に完了し、加えて更なる研究の発展が見込まれると考えられる。以上のことにより、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン分泌に著しい促進効果が確認できた化合物Xについては、さらに解析を続ける。同定されたミトコンドリア由来のたんぱく質との相互作用が、どのようにインスリン分泌を促進しているのかを解析する。阻害化合物群においては、質量分析によるターゲット分子の同定を急ぎ、阻害のメカニズムを解明することにより、インスリン分泌の未解明の分子メカニズムを明らかにする。これらを達成するために、今後は実験マウスを用いたin vivoにおける効果の確認実験の系の確立も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に使用する消耗品や試薬類と同様の物が研究室内に在庫として残っており、使用期限の近いそれらを優先して使用した。しかしながら今後購入予定の試薬類は、阻害化合物の候補群においても計画以上の成果が見込まれ、計画以上の実験が必要になることから、当初の計画通り必要になる見込みなので、これらをまとめて次年度に購入する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞培養器具や培地、試薬類、化合物Xの追加の化学合成依頼と阻害化合物候補群の購入、さらに実験マウスの購入と管理費が研究費の使途になる。さらにこれまでに得られたデータ等を国内外に発表するための旅費や、論文投稿等の費用にも使用する。
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