研究課題/領域番号 |
26670152
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
樋口 京一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20173156)
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研究分担者 |
八谷 如美 東京医科大学, 医学部, 教授 (30408075)
澤下 仁子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (40359732)
矢崎 正英 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (70372513)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アミロイドーシス / プロテオーム解析 / 老化 / バイオ関連機器 / 実験病理学 / レーザーマイクロダイセクター / 線維蛋白質 / 凝集体 |
研究実績の概要 |
アミロイド物質の構造と機能の解析のために、画期的なレーザーマイクロダイセクター(ALMD)を駆使して、マウスとヒトアミロイドーシスにおける、アミロイド沈着の時間的、部位的微小空間を切り取り、プロテオーム解析とマウスを用いた伝播性解析に焦点を当てた研究を行なう。研究システムは①AApoAII アミロイドーシス、②実験的AA アミロイドーシス、③神経変性疾患や全身性アミロイドーシス患者組織、である。平成26年度は以下のような研究実績を得た。 1. マウスAApoAIIアミロイドーシスでのプロテオーム解析、2. アミロイドーシス患者組織のプロテオーム解析、3. ALMDを中心機器としたダイレクトバイオロジーの立ち上げと第1回研究発表会の開催。 1.ではマウスにAApoAIIアミロイド線維10 μgを静注してアミロイド沈着を誘発し、0, 2, 4, 7, 12ヶ月後に屠殺して肝臓を採取し、凍結試料と組織切片を作成した。凍結組織からアミロイド線維分画を抽出するとともに、組織切片のアミロイド沈着部位の周囲を超微細レーザーで焼き切リ、アミロイド沈着部位のみを採取して、 信州大学の最新型ナノフローLC/MS/MS解析システムを用いた網羅的プロテオーム解析をおこなった。その結果、アミロイド沈着に伴い増加するアミロイドーシス関連蛋白質としてApolipoprotein E (ApoE), Clusterin, Vitronectin, CD81を同定した, 2.家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)患者肝臓のドミノ移植を受け、アミロイド沈着を発症した患者組織から、ALMDを用いてアミロイド線維蛋白質を抽出し、質量分析を行った結果、FAP患者に由来する変異型TTR蛋白質の沈着であることを明らかにした(論文投稿中)。3.東京都産業技術研究センターで第1回ダイレクトバイオロジー研究会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者の八谷の開発した画期的なレーザーマイクロダイセクター(ALMD)は、改良が継続されている。ALMDは研究分担者の矢崎や研究代表者の樋口の研究グループをはじめとして、アミロドーシスの沈着蛋白質の同定に頻繁に利用されるようになり、利用頻度が顕著に増大している。矢崎はALMDを用いて、FAP患者肝臓のドミノ移植を受けた後、短期間でアミロイド沈着が発見された患者のアミロイド蛋白質はFAP患者肝臓由来の変異型TTRであることを、世界で初めて直接的に示すとこができたのは予想以上の成果であった。この成果は論文投稿中である。さらに沈着アミロイド蛋白質が不明な、家族性アミロイドーシス患者の組織よりアミロイド線維を抽出し、fibrinogen Aα-chain の沈着であることを明らかにし、雑誌論文として発表した(Yazaki M et al, Amyloid 2015)。 また、研究代表者のチームはマウスのAApoAII投与によりアミロイドーシスを誘発したマウスを継時的に屠殺し、肝臓を採取して、アミロイド線維蛋白質の分離と組織切片の作成を行った。生化学的に分離したアミロイド線維分画とALMDで切り取ったアミロイド沈着領域の網羅的プロテオーム解析を行い、アミロイド沈着に特異的で、アミロイド沈着の重篤化に伴い、含量が増加するアミロイド関連蛋白質としてApolipoprotein E (ApoE), Clusterin, Vitronectin, CD81を同定することができた。また、ALMDを中心機器としたダイレクトバイオロジーの概念を提唱し、第1回研究会を開催した。これらは当初の計画以上の成果ということができる。一方で、凍結組織を用いた解析は実施されておらず、組織切片からの蛋白質の抽出方法や、ホルマリン固定した組織を用いたプロテオーム解析の感度の向上などの問題が存在している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降も26年度の研究の継続が必要である。特に研究代表者と八谷はALMDの改良と利用促進を推進する。そのために発足させたダイレクトバイオロジー研究会の発展を推進する。特に、ホルマリン固定したサンプルや、既存の病理組織切片を用いたALMDとプロテオーム解析の感度の顕著な改善を目指して、研究グループ内外の協力を推進する。それに加えて27年度は以下の研究を実施する。 1.マウスAApoAII やAAアミロイドーシスを発症したマウスの凍結切片を利用して、抗体染色後のALMDによる解析領域の切り出しとナノフローLC/MS/MSシステムを用いたプロテオーム解析の方法論の確立と推進を行う。検体に含まれる蛋白質や脂質の同定と、時間的、部位的相違による量的変動を解析する。 2.切り出した空間のアミロイドーシス伝播力の解析:(1) SAMR1C-Apoa2c Tgに切り出した検体を投与し、2ヶ月後のアミロイド線維沈着を検出して伝播力を解析する。(2) C57BL/6マウスに切り出した検体を1%AgNO3の皮下投与と同時に投与し、10日後に屠殺する。脾臓のAAアミロイド沈着を検出し伝播力を解析する。 3.ヒト神経変性疾患や全身性アミロイドーシスのアミロイド蛋白質の同定を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の澤下の物品費や旅費等で次年度への繰越が生じた。 これは、マイクロダイセクター(ALMD)で採取したサンプルからの蛋白質などの抽出が遅れたため、試薬等の使用額が当初予定額よりも減少したためである。今後抽出方法などの改善を行い、27年度で解析を行う予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
生化学的解析(蛋白質の質量解析や脂質解析)に用いる予定である。 さらに、関連研究会(第2回ダイレクトバイオロジー研究会等)への出席への旅費として用いる予定である。
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