多小胞エンドソームは分解系に回るか、エキソソーム放出系への道をたとるが、エキソソーム系への成熟機構に関して詳細は不明であった。最近申請者らのグループは、M V B 上のスフィンゴシン1リン酸(S 1 P)受容体の持続的活性化がエキソソームへの「積荷」の選別・輸送に必須であることを世界に先駆けて報告した。そこで本研究ではこの知見を更に推し進め、癌の転移・浸潤に関与し、エキソソームとして放出される「積荷」がS 1 P シグナル依存性にエキソソーム中に放出されるかに焦点を合わせ解析した。 悪性度の高いヒト・メラノーマ細胞を培養し、培養液に放出されたエキソソームを回収し、積荷タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動・銀染色法により解析した。コントロール条件に比べてスフィンゴシン・キナーゼ阻害薬HACPTで処理した細胞に於いてはエキソソーム中の積荷タンパク質の量は有意に減少していた。しかしながら、銀染色のパターンで比較すると、HACPT処理により有意に放出が減少するタンパク質が約三分の一認められるものの、HACPT処理で変化しないタンパク質も残りの約三分の一に認められた。以上の結果から、エキソソームとして放出される積荷タンパク質の一部はS1Pシグナルにより調節を受けることが確かめられた。次に癌の悪性化に係わる既に報告されているタンパク質がS1Pシグナルの制御を受けるか否かに関しては現在解析中であるが、予備的実験ではMetなど癌の悪性化に寄与すると考えられるタンパク質のエキソソームによる放出はHACPT処理により減少する結果が得られており、S1Pシグナルの癌の悪性化に対する影響について、更に追加実験を行うと共に、それらの成果をまとめて報告する予定である。
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