研究課題/領域番号 |
26670166
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
大内 史子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主任研究員 (00435710)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カルパイン / 肢帯型筋ジストロフィー2A / プロテオーム解析 / ノックアウトマウス / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
カルパイン3 を欠失(KO)、あるいはプロテアーゼ不活性型と置換(KI)させたLGMD2A のマウスモデルの通常の飼育条件下での表現型を各遺伝子型の①マウスの体重変化、②筋力(握力)の変化に着目して解析した。①は、離乳以前の仔の体重の差は認められないが6週齢(離乳2週間後、幼若期)においてKOの体重がWTと比較して有意に小さく、成長曲線の解析から体重の漸近値(Wmax)はKOではWT、KIと比較して有意に小さい(Wmax KO =20.77g、 Wmax WT =22.5g、 p=0.014)ことが明らかになった。②はWT、KIでは加齢に伴う変化は認めなかったがKOにおいては有意な低下が観察された。これらのKO とKIの表現型の差はカルパイン3のプロテアーゼ活性ではなく構造タンパク質としての機能が体重、筋力の維持に寄与していることを初めて示した重要な結果である。 本年度はこれらの変化の分子メカニズムを解明するため、幼若期と老齢期およびその中間的な時期の各遺伝子型のマウスから骨格筋を収集し、比較定量プロテオーム解析および組織染色解析用の試料を得た。当初骨格筋では筋繊維を構成するミオシン、アクチンの量が他のタンパク質と比較して非常に多いためにショットガンプロテオミクス法では本来存在するタンパク質のうちの多くの分析が困難であると想像されたが、ミオシンの多くを不溶性の画分に回収することで可溶性画分の分離を改善しカチオン交換カラムでの分画を工夫した結果、同時に1000種類以上のタンパク質の同定ができた。体重変化の認められた幼若期のマウスの比較プロテオーム解析の結果、21種類のタンパク質において変動を認めており生化学的な解析を進めている。また、25週令(成体)の組織染色像では、筋線維の再生を示す中心核がKOマウスでKI、野性型と比較して統計的に有意に顕著であることを見いだしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)2A においては責任遺伝子であるカルパイン3 の欠損により細胞内シグナル伝達に齟齬が生じると考えられているが、その病態生理の分子メカニズムは十分に解明されていない。本研究ではカルパイン3 を欠失(KO)、あるいはプロテアーゼ不活性型と置換(KI)させたLGMD2A のマウスモデルの比較解析による解明を目指している。 本年度はカルパイン3を欠失(KO)またはプロテアーゼ活性欠失型(KI)させたLGMD2Aモデルマウスの通常飼育条件下での表現型の差を見いだした。これは、カルパイン3の構造タンパク質としての機能が体重・筋力の維持に必須であることを示唆する初めての結果である。またその時期を中心に骨格筋の試料の収集し、その組織染色解析および比較定量プロテオーム解析のための試料を次年度解析予定のものを含め収集した。 また、体重の差の生じ始めた幼若期の骨格筋の比較定量プロテオーム解析を行った結果、LGMD2A病態関連タンパク質候補21種類が見いだされており、すでにいくつかの候補について生化学的な実験を進めている。 次年次以降に解析予定の刺激負荷条件下での飼育として、後肢懸垂により筋萎縮を惹起する方法を導入し、2週間程度の懸垂期間の後、リロード0日、4日の各遺伝子型マウスの組織染色用、プロテオーム解析用の骨格筋試料の収集を開始した。 以上から、おおむね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き通常飼育状態の老齢期、中間期の比較定量プロテオーム分析と、変化の見られたタンパク質の生化学的な解析を進める。また、カルパイン3はプロテアーゼとしてその基質を限定分解することで基質の機能などを調節していると考えられるので、ペプチドレベルでの変動についても比較定量プロテオーム分析の結果をもとにさらに詳細に解析を進める。これらの結果から特に肢帯型筋ジストロフィー2A(LGMD2A)との関連の強いものを絞り込み、骨格筋初代培養細胞を用いてより詳細に病態メカニズムを分子レベルで明らかにすることを試みる。 刺激負荷した飼育条件については、検討中の後肢懸垂モデルを中心に、運動負荷の条件等も検討しつつ、比較定量プロテオーム解析を行っていく。 また上記でLGMD2Aの病態との関連が認められたシグナル経路が、LGMD2A独自のメカニズムなのか、他の筋ジストロフィーにも関与するのかについて、他の筋ジストロフィーマウスモデル(mdx(デュシェンヌ型筋ジストロフィーマウスモデル)、mdm(重症筋ジストロフィーを呈する。LGMD2J/TMD(遠位型筋ジストロフィー)のマウスモデル)、SLJ(LGMD2B/MM(三好ミオパチー)の骨格筋試料を用いて生化学的に解析して明らかにする。 さらに、以上で見いだされたLGMD2A 関連タンパク質因子について、診断マーカーや創薬ターゲットとしての応用が可能であるのか、主に末梢血中の動態を検出できるのかに注目して生化学的に検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
プロテオーム解析の試料の前処理用の装置の購入を計画していたが、カチオン交換カラムでの分画を工夫することで想定以上に多くのタンパク質の同定が可能であったこと、骨格筋サンプルが予定以上に多く準備できたために定量比較解析用の試薬の使用量が当初よりも多く必要になったこと、またその価格が上がったことがあり、前述の高額な分析装置の購入を見送ることにしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降にも比較定量解析用の試薬類が多く必要になることが予想されるため、それらの購入に有効に利用していく。
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