研究課題/領域番号 |
26670166
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
大内 史子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主任研究員 (00435710)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 筋ジストロフィー / カルパイン3 / プロテオミクス / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
肢帯型筋ジストロフィー2A型の病態解明を目指し、そのモデル動物であるカルパイン3遺伝子改変型マウス(酵素活性欠失型CAPN3を野生型に代わって発現するノックイン(KI)マウスおよびCAPN3完全欠損型ノックアウト(KO)マウス)の野生型との比較解析を行っている。KIはKOと比較して症状が弱いことから、カルパイン3のプロテアーゼ活性だけでなく、非酵素的な機能が病態に関連することが示唆されているが、その分子レベルでのメカニズムは不明であった。本研究では幼若期のプロテオーム解析の結果、KO、KIともに筋収縮に関連するタンパク質の変動を認めたが、さらにKOにおいてはCa結合タンパク質、アクチン結合タンパク質の変動も大きいことが示された。これらについて生化学的な検証を進めつつある。 KOにおいて量の少ない傾向が認められたCa結合タンパク質Parvalbuminは、速筋線維において細胞質内に放出されたCaと迅速に結合して筋弛緩を促し筋小胞体に戻す機能を持つ。そこで、速筋線維の減少や筋線維成熟の遅延の可能性を考えて筋線維型の比率などを免疫組織化学的に解析した。前脛骨筋は文献的には5週令では速筋型線維へと成熟を遂げているとされているが、本モデル系では遅筋型マーカー(遅筋型ミオシン重鎖)陽性の線維が一定量存在しており、その分布に偏りがあることを見いだした。また予備実験では遅筋型マーカー陽性の筋線維は野生型と比較してKOで少ない傾向が認められた。このことからKOにおいては筋成熟の進行度に差がある可能性を示唆している。KIではこの傾向は認められなかったため、カルパイン3の非プロテアーゼ活性が筋成熟に影響していると推察される。筋線維の変性後の再生過程と成熟過程の分子メカニズムと共通であるため、以上の結果は進行性の筋萎縮を呈する肢帯型筋ジストロフィーの病態のメカニズムの一端を示していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2種類のカルパイン3遺伝子改変型マウス(酵素活性欠失型CAPN3を野生型に代わって発現するノックイン(KI)マウスおよびカルパイン3完全欠損型ノックアウト(KO)マウス)はそれぞれ、C57BL/6Jおよび、C57BL/6Nをバックグラウンドとしていた。非常に近縁のマウスではあるが、近年その表現型の違いも指摘されるようになったこと、および体重変化の傾向がKO、KIで異なっていたことに加え、繁殖力がKI型でやや弱かったため、より精緻な結果を得るためにC57BL/6N系統に背景を揃えた。その結果、繁殖力の差は消失し、野生型と比較して少なくとも5週令では高体重であることがわかった(成体での体重差は観察中)。遺伝背景の差がこれまで得たデータに影響した可能性を鑑みると、再解析を要すると考えられ、期間延長させていただくことにした。 プロテオーム解析により見い出した2種類のLGMD2Aモデルマウス、KOおよびKI間の違いから、カルパイン3の非酵素的機能がCa結合タンパク質を介し筋線維内のカルシウム動態に影響している可能性が示された。生化学的な解析は新たに作製した遺伝背景が同一のモデルマウスを用いて確認実験を行うため次年度に実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝的背景を揃えたモデルマウスは本年度までに作製できたので、これらを用いて体重の変化の傾向、筋力の変化などのマウス表現型の差を観察する。さらに、これらを用いてプロテオーム解析で見いだしたCa結合タンパク質の変動について生化学的解析を行う。また、カルパイン3遺伝子変異による筋繊維の成熟への免疫組織化学的解析の再試によりカルパイン3の非酵素的機能が病態に与える影響について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2種類のカルパイン3遺伝子改変型マウス(酵素活性欠失型CAPN3を野生型に代わって発現するノックイン(KI)マウスおよびCAPN3完全欠損型ノックアウト(KO)マウス)の遺伝背景の差がこれまで得たデータに与えていた可能性が見いだされた。そのためより確実な結果を得るために再解析が必要になったためその分の費用を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝背景の揃ったカルパイン3遺伝子改変型マウスを用いて、生化学的解析を再度行うために必要に応じ、抗体、標識試薬などの必要な試薬を購入する。また、成果報告のための学会参加費、論文発表用費用とする。
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