肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は四肢の近位が顕著に冒される筋ジストロフィーである。LGMD患者の約30%を占める2A型(LGMD2A)の責任遺伝子産物カルパイン3はカルシウム依存的Cysプロテアーゼである。野生型カルパイン3に代えて酵素活性欠失型を発現するノックインマウス(KI)も筋ジストロフィーの症状を呈するが、カルパイン3欠失型マウス(KO)の症状がより重篤であることから、酵素活性だけでなく非酵素的な機能欠損も病態に関与すると考えられている。本研究ではLGMD2Aモデルとなる2種のカルパイン3機能欠失マウス(KO及びKI)を比較解析し、以下に述べる発症分子メカニズムの一端を明らかにした。 5週齢前脛骨筋のプロテオーム解析の結果、KOでは速筋線維に特徴的なタンパク質が減少していたことに着目し、筋線維型のマーカー分子であるミオシン重鎖(MYH)の発現を蛍光免疫染色(IF)および定量的PCR(qPCR)法により解析した。まずIFでは遅筋型MYH陽性線維がKO、KIともに野生型と比較して有意に多かった。またKIではこれら陽性線維の短径が太い傾向が示された。qPCR法では、周産期型MYHの発現量がKO、KIでともに有意に多いことも特徴であった。筋細胞の分化・成熟を促進する転写因子myogeninの発現量については、KOでは野生型と比較して有意に上昇、KIでは上昇するものの有意差を認めなかった。以上から、KI、KO共に筋線維の成熟が遅滞するが、影響を受けている分子群が異なることが示された。 本研究結果より、LGMD2Aの病態では、骨格筋の壊死によって誘発される再生過程においても、カルパイン3の機能欠損が関わることを考慮すべきだと思われる。また、カルパイン3の酵素活性と非酵素的な活性、それぞれの欠損特異的にLGMD2A病態へ関与する分子群を同定することを今後の重要課題としたい。
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