研究課題/領域番号 |
26670167
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚原 俊文 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (60207339)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | デアミナーゼ / RNA editing / MS2 / 活性部位 / ガイドRNA / 遺伝子修復 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体内のRNA Editing機構を模倣し、核酸塩基の脱アミノ化酵素の触媒部位とターゲット部位に相補的なguide RNAを細胞内に発現させ、結合させて作用させることで、細胞内での恒常的な人為的かつ部位特異的な塩基の脱アミノ化の実現を目指している。脱アミノ化によって標的塩基をA→IあるいはC→Uとすることができれば、結果として遺伝コードを修復することが可能であり、全く新しい遺伝性疾患の治療法となる。 今年度はAdenosine Deaminase acting on RNA (ADAR)ファミリーおよびApolipoprotein B mRNA-editing enzyme catalytic polypeptide (APOBEC)ファミリーの各遺伝子とそれぞれの活性ドメインのクローニング、さらには活性ドメインとguide RNAを結合するためのMS2システムの構築を行った。 MS2システムでは、酵素触媒ドメインとの融合タンパク質を作成するためのMS2コートタンパク質の遺伝子と、同様にguide RNAとの融合RNAを作成するためのMS2繰り返しループ配列の単離を行い、利用可能な状態にした。一方、ADAR1および2とAPOBEC 3Cおよび3Gのデアミナーゼ部位についてもPCRクローニングを行った。両プライマーの末端にはそれぞれユニークな制限酵素切断部位を有しており、簡単にMS2コートタンパク質との融合タンパク質が作成可能である。 一方、欧州の大型研究費であるHorizon2020の獲得に向けて、欧州の7機関と共同研究を開始し、申請に向けて準備を進めている。コンソーシアムメンバーにはADARの研究者、APOBECの研究者、ベクター開発の研究者の他、計算科学的アプローチによる酵素活性の高度化に関する研究経験を有する研究者もいることから、本研究の進捗に貢献する体制が整ったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素触媒ドメインの単離では、ADAR1および2、APOBEC 3Cおよび3Gのデアミナーゼ部位をPCRクローニングによって単離した。両プライマーの末端にはそれぞれユニークな制限酵素切断部位を有するデザインとしたため、下記のMS2コートタンパク質との融合タンパク質が作成は容易である。また、酵素触媒ドメインとの融合タンパク質を作成するためのMS2コートタンパク質の遺伝子と、guide RNAとの融合RNAを作成するためのMS2繰り返しループ配列の遺伝子断片単離に成功し、MS2システムを利用可能な状態にした。 一方、国際的な連携を強化し、ADAR研究ではイタリアIRCCSのAngela Gallo博士、APOBEC研究では同じくイタリアITTのSilvo Conitcello博士、ウイルスベクター開発ではベルギーVIBのMatthew Holt博士らとの共同研究を開始し、企業関係者も含め、欧州7機関とのコンソーシアムが構築された。現在、このコンソーシアムで欧州の大型研究費であるHorizon2020への応募を準備中で有り、人為的RNA Editingを利用した遺伝コード修復治療に向けて前進した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに単離した活性触媒ドメインとMS2システムを利用して人工酵素RNA複合体を形成し、in vitroで部位特異的脱アミノ化の評価を行う。人工的なguide RNA-脱アミノ化酵素を標的mRNAに作用させ、部位特異的な脱アミノ化を誘起する。処理後のmRNAをRT-PCR-RFLPによって評価し、部位特異的な塩基の脱アミノ化の有無を確認すると共に、標的RNAをin vitro翻訳して、蛍光観察によって遺伝コードの修復を確認する。 ADARではguide RNAが相補鎖を作り、相補鎖中央のミスアニール部位のAが脱アミノ化される。従って、ミスアニール部位がAではなく、Cの場合にも脱アミノ化する可能性がある。同様に、APOBECやAID、TADの場合でも同様である。分子動力学的計算によってこれら四種の脱アミノ化酵素の特異性決定機構に関する知見を得、それを元に様々な脱アミノ化酵素の触媒部位とguide RNAの組み合わせて人工脱アミノ化酵素複合体の創成を行う。 In vitroでの人為的部位特異的脱アミノ化に有効な人工酵素複合体の開発が成功すれば、次に細胞内での遺伝コード修復に関する研究を行う。変異EGFP遺伝子の恒常発現細胞を樹立し、人工酵素複合体の構成要素である2つの遺伝子を同時に細胞に導入して蛍光の回復を観察する。当然のことながらRFLPや塩基配列の確認も行い、細胞内で遺伝コードが修復されていることを分子レベルでも確認する。 植物ではRNA EditingによるU→C変異、即ちUへのアミノ基付加が報告されており、条件さえそろえばRNA Editingの逆反応である部位特異的なアミノ基付与は可能と考えられる。当然のことながら、アミノ基の供与体が活性中心の近傍に必要だが、上手く配置することができれば、部位特異的なアミノ基付加も可能と考えている。連携研究者である舘野や、欧州コンソーシアムメンバーの適切なアドバイスによって、世界初の哺乳動物細胞による部位特異的アミノ基付加反応を成功させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の持続的な発展のため、研究期間の全体で計画的に使用することを見込んでおり、今年度は人工酵素の構成要素である脱アミノ化触媒部位およびMS2システムのRNAとタンパク質の遺伝子単離を優先して行った。そのため、人工酵素の構築と評価に関する実験を次年度に行うこととし、使用残額とした。今後の研究計画遂行のために必要不可欠なものであると考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
人為的な部位特異的脱アミノ化を触媒できる人工酵素の開発研究遂行のため、試薬・消耗機材購入のための物品費および、論文投稿のための英文校閲や出版のための費用としての支出を計画している。
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