研究課題
ヒストンメチル化関連酵素遺伝子の変異で発症する先天異常症候群には、H3K4メチル化酵素遺伝子KMT2DあるいはH3K27脱メチル化酵素遺伝子KDM6Aが原因である歌舞伎症候群(KS)とH3K36メチル化酵素遺伝子NSD1が原因であるソトス症候群(SoS)がある。これらのヒストン修飾とDNAメチル化は密接に関連することから、原因遺伝子変異のDNAメチル化への影響を調べるため、ゲノム中のインプリンティング関連DNAメチル化可変領域(DMR)のメチル化状態を解析した。KS 18例とSoS 21例の末梢血DNAを用いて、MALDI-TOF質量分析計により36ヵ所のDMRをスクリーニングし、異常メチル化を示したDMRについてbisulfite-pyrosequencingで確認した。KSでは2ヵ所のDMRで低メチル化、3ヵ所のDMRで高メチル化を認めたが、メチル化異常を示した症例の頻度は6-11%と低く、DMRのメチル化異常との関連性は低いと考えられた。一方、SoSでは8ヵ所のDMRで低メチル化を認め、特にDMR-Xでは71%、DMR-Yでは62%、DMR-Zでは48%の症例で低メチル化を認めた。そこで、DMR-Xの低メチル化に焦点を絞って解析を進めた。DMR-Xは遺伝子Aのプロモーター近傍に存在する。DMR-Xの配列はマウスとヒトで保存されているが、DNAメチル化状態は両者で異なるため、マウスを用いた実験はできない。そこで、ヒト染色体を一本保持しているCHO細胞を用いることとした。父由来染色体1本をもつCHO細胞と母由来染色体1本をもつCHO細胞のDMR-Xのメチル化を調べたところ、健常人と同様に親由来によってメチル化状態が異なるDMRを示していた。このことから、本細胞を用いて、DMR-Xのメチル化と遺伝子Aの発現との関連性について解析できることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究目的では、ヒストンメチル化関連酵素遺伝子異常症としてKSのみを対象としていたが、同類の疾患としてSoSを加え解析した。まず、インプリントDMRのDNAメチル化状態を解析したところ、KSではンプリントDMRのメチル化異常との関連性は低いと考えられたが、SoSでは関連性が強く示唆された。そのため、SoSの解析を中心に行うこととした。SoSで最も高頻度にメチル化異常を示したDMR-Xに関してDNAメチル化異常と遺伝子発現の関連性については、ヒト染色体を一本保持しているCHO細胞を用いて実験できることがわかった。また、DMR-Xの範囲を決めるためにSNPがヘテロ接合であるヒト検体を用いてbisulfite-sequencingを行っており、結果が出つつある。さらに、共同研究でNsd1およびKmt2dのノックアウトマウスの作製が進行中であること、コンディショナル・ノックアウト用のflox ES細胞の作製が進行中であることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
SoSで最も高頻度にメチル化異常を示したDMR-Xについて、ヒト染色体を一本保持しているCHO細胞をDNA脱メチル化剤処理をすることでDNAメチル化異常と遺伝子発現の関連性を明らかにする。NSD1によるヒストンメチル化との関連性についても解析する。また、DMR-Xの範囲を決めるため、SNPがヘテロ接合であるヒト検体を用いてbisulfite-sequencingを行う。さらに、ルシフェラーゼアッセイ等によりDMR-Xがもつ遺伝子発現に関する機能を解析する。SoSで2番目に高頻度にメチル化異常を示したDMR-Yについても同様に解析を進める。一方、KSについては、イルミナ社450Kビーズアレイを用いてKMT2D変異患者検体と正常コントロールと比較することにより、DNAメチル化異常部位を検出し、標的遺伝子を探索する。さらに、共同研究により作製が進んでいるノックアウトマウスおよびflox ES細胞を入手し、標的遺伝子の探索による病態の解明を試みる。
各種試薬の節約、効率的な使用方法により出費を抑えることができた。また、講座費等で一部分を賄った。
次年度は、主としてCHO細胞培養、DNAメチル化解析、遺伝子発現解析、ルシフェラーゼアッセイに必要な消耗品に研究費を充てる。その他、成果発表のための旅費、試料の運搬費、英文校正費に使用する予定である。
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