研究課題/領域番号 |
26670169
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
副島 英伸 佐賀大学, 医学部, 教授 (30304885)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ヒストンメチル化酵素 / DNAメチル化 / ソトス症候群 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
ヒストンH3K36メチル化酵素遺伝子NSD1の変異で発症するソトス症候群(SoS)について、遺伝子変異とDNAメチル化への影響を調べるため、ゲノム中のインプリンティング関連DNAメチル化可変領域(DMR)のメチル化状態を解析した。昨年度の解析で複数のDMRの低メチル化を認めた。今年度はDMR-XとDMR-Yに絞って解析を進めた。DMR-Xは過成長と関連する遺伝子遺伝子Aのプロモーター近傍に存在するため、遺伝子Aの発現を制御している可能性がある。そこで、培養細胞(HEK293、KP4)を5-Aza-2’-deoxycitidne(5-aza-CdR)で処理し、DMR-Xを脱メチル化させた。すると、遺伝子Aの発現が1.4~3.5倍上昇した。DMR-Yについても同様に培養細胞での脱メチル化処理を行い、DMR-Yの標的遺伝子Bと標的遺伝子Cの発現を解析したところ、それぞれ約50倍、25~35倍の発現上昇を認めた。このことから、SoSでは、DMRの脱メチル化により遺伝子発現が上昇し、過成長が惹起されることが示唆された。 一方、CRISPR/Cas9システムを用いて、ヒトテラトカルチノーマ由来幹細胞NCCIT細胞のNSD1のC末端に3xFLAG tagを挿入した細胞を樹立した。各種分化マーカーを調べたところ、レチノイン酸存在下で少なくとも前期神経前駆細胞まで分化させることが可能であることを確認した。今後は、未分化状態と分化状態でのChIP-seqを行いNSD1の標的遺伝子を網羅的に同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究目的では、ヒストンメチル化関連酵素遺伝子異常症としてKSのみを対象としていたが、昨年度の研究結果からSoSの解析を中心に行うこととした。 細胞の5-aza-CdR処理は、ゲノム全体の脱メチル化を起こすため、目的のDMR以外の脱メチル化の影響を除外できない。そこで、改変CRIPSR-Cas9を用いてDMR-X特異的に脱メチル化を誘導する実験系の確立を行っている。また、NSD1をノックダウンさせ、DMRのメチル化と標的遺伝子の発現を解析する実験を進めている。さらに、連携研究者吉浦教授がNSD1のfloxマウスを作製したため、このマウスを供与いただいてコンディショナルノックアウトを作製中である。脳特異的にノックアウトを行い、標的遺伝子同定、行動解析、治療薬スクリーニングを行う予定である。改変CRIPSR-Cas9およびNSD1ノックダウンの実験系の確立、コンディショナルノックアウトマウスの作製に時間がかかっているため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
1.改変CRIPSR-Cas9を用いてDMR-X特異的に脱メチル化を誘導する実験系を確立する。具体的には、触媒部位に変異を入れた不活化Cas9にDNA脱メチル化酵素TETをつないだ融合タンパクをガイドRNA(gRNA)を用いてDMR-X特異的に作用させ、脱メチル化させる。その後、遺伝子Aの発現上昇の有無を解析する。 2.NSD1をノックダウンの実験系を確立し、DMRのメチル化と標的遺伝子の発現を解析する実験を進める。現在、shRNAを5種類準備し、ノックダウン効果を調べているところである。 3.NSD1にFLAG tag付加したNCCIT細胞の未分化状態と分化状態でのChIP-seqを行いNSD1の標的遺伝子を網羅的に同定する。 4.NSD1のコンディショナルノックアウトについては、脳特異的にノックアウトを行い、標的遺伝子同定、行動解析、治療薬スクリーニングを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種試薬の節約、効率的な使用方法により出費を抑えることができた。また、講座費等で一部分を賄った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、主として細胞培養、DNAメチル化解析、遺伝子発現解析、マウス飼育に必要な消耗品に研究費を充てる。その他、成果発表のための旅費、試料の運搬費、英文校正費に使用する予定である。
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