研究課題/領域番号 |
26670172
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
野口 雅之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00198582)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | DDAH2 / lung adenocarcinoma / malignant stroma / angiogenesis |
研究実績の概要 |
本研究はDimethylarginine Dimethylaminohydrolase 2 (DDAH2)が肺腺癌の腫瘍間質で発現する意義を明らかにするとともに予後因子としての可能性を探るものである。 ①DDAH2RNAプローブを用いてIn situ hybridizationを行うと肺腺癌間質に存在する線維芽細胞に陽性所見が得られた。以上より、肺腺癌間質でDDAH2を発現するのは間質内の線維芽細胞であることが同定された。 ②異型腺腫様過形成(AAH)、上皮内腺癌(AIS)、微小浸潤病変(MIA)および進行腺癌におけるDDAH2の発現状態を調べるためにAAH:14例、AIS:33例、MIA:11例、進行癌:75例を用いて免疫染色にて検討した。AAHでは2例(14%)、AISでは19例(58%)、MIAでは11例(100%)、進行癌では74例(99%)が陽性を示した。DDAH2はAAHやAISなど非浸潤癌では発現が限られるがMIA以上の進行癌になるとほぼ100%にその発現が認められることがわかった。 ③肺腺癌の予後にどの程度DDAH2の発現が影響を与えるかを61例の予後が明らかな肺腺癌を選んで免疫染色を用いて解析した。強発現例は26例、低発現例は35例で強発現例は低発現例よりも有意に予後が悪かった(p<0.026)。 ④DDAH2はADMAを抑制してeNOSの発現を亢進させ、血管の保護、増生に関与していることが報告されている。そこでAIS(1例)と進行腺癌(5例)を用いてDDAH2とeNOSの発現をwestern blotting法を用いて比較した。進行腺癌のすべての症例でDDAH2, eNOSともに正常肺に比較して高発現していたが、AISではどちらも強い発現は見られなかった。DDAH2はADMAを抑制することによってeNOSの発現を亢進させている可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はDimethylarginine Dimethylaminohydrolase 2 (DDAH2)の肺腺癌間質における機能的役割を明らかにすることであり以下に示す5つの項目について研究を進める予定であった。(1)前浸潤病変、あるいは極めて初期の肺腺癌症例を用いてDDAH2の免疫組織染色を大規模症例解析し、わずかな量の癌間質(つまり浸潤性病変部)を判定できるかどうかを検討する。(2)癌間質内でDDAH2を発現している細胞(血管内皮細胞?、線維芽細胞?)をin situ hybridizaiton法を用いて明らかにする。(3)肺腺癌細胞株にDDAH2を強制発現させ、ヌードマウスに移植し、形成された腫瘍におけるDDAH2の発現を確認するとともに新生血管の状態、間質の誘導状況などを解析する。(4)SPCプロモーター下にDDAH2を発現するベクターを作製し、これを用いてトランスジェニックマウスを作製する。作製されたトランスジェニックマウスを用いてNNK等による化学発癌実験を行い、発生した腫瘍の間質の状態(特に新生血管の状態)を解析する。(5)siRNAを用いたRNA干渉実験を行い、DDAH2をターゲットにした浸潤性肺腺癌の治療の可能性を探る。 平成26年度は(1)(2)は達成できたものの、(3)(4)(5)には手をつけられなかった。しかし、この理由は研究を行っていく過程でDDAH2がADMA抑制してeNOS産生を亢進させ、血管保護、増生に関わることがわかったのでDDAH2, eNOSの関係、およびDDAH2が血管増生に関与するかどうかの機能的解析に研究が進展したためである。DDAH2と血管増生については多くの結果を得ることができた。平成27年度は研究計画を少し変更して肺腺癌間質におけるDDAH2による血管増生機能の分子機構を研究する。
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今後の研究の推進方策 |
研究の達成度の項で記したように、DDAH2は肺腺癌間質における血管保護、あるいは血管増生に関与しているであろうことがわかってきた。一方で、よく知られた腫瘍血管増生因子としてVGEFがあるが、DDAH2がVGEFの発現を促進させているとする報告も見られる。またhypoxiaがDDAH2発生の誘因になっている可能性があることも報告されている。本年度はこれら悪性間質におけるDDAH2発現亢進の分子機序を明らかにするとともにDDAH2の下流における分子伝達機構の解明を目的に研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた物品が予定より安価で済んだため
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は計画的かつ有効に使用したい
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