研究実績の概要 |
胎児性抗原はCEA, αFP, など腫瘍マーカーとして腫瘍の診断、あるいは経過観察を行う上で重要である。しかし、これらの腫瘍マーカーを網羅的手段で検索し、発見するための研究は今まで行われてこなかった。そこで我々はミニブタ胎児肺組織を抗原としてマウスモノクローナル抗体を作製することを試みてきた。その結果、肺腺癌間質で特異的に反応するモノクローナル抗体の作製に成功した。免疫沈降法、およびLC-MS/MS法を行い、この抗体の認識する抗原がDimethylarginine dimethylaminohydrolase 2 (DDAH2)であることを突き止めた。本研究では肺腺癌間質におけるDDAH2の機能解析を行った。DDAH2はADMAにたいする阻害効果を持つ酵素でその結果、動脈硬化を抑制することが知られている。DDAH2は腫瘍間質にびまん性に染色されるため腫瘍間質におけるDDAH2発現細胞を確定するためin situ hybridization法を用いて解析した。その結果腫瘍間質でDDAH2を発現する細胞は腫瘍間質の線維芽細胞であることが分かった。DDAH2は異型腺腫様過形成や上皮内腺癌などの非浸潤性病変では46%の発現率にとどまるものの、微少浸潤癌を含む浸潤癌病変ではほぼ100%の陽性率があり、強陽性を示す症例は予後が悪いことが分かった。一方DDAH2高発現症例ではeNOSの発現も高く、これらの症例では血管新生が促進されていることが考えられた。HUVEC細胞を用いたion vitroの解析でもrDDAH2はHUVEC細胞の増殖を亢進し、管腔形成率を増加させた。以上より肺腺癌間質で発現が亢進するDDAH2は浸潤のマーカーになるだけでなく、間質における血管増生の鍵になる酵素であることが推測され、間質をターゲットにした分子標的治療薬としても注目すべきターゲットであることを明らかにできた。
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