研究課題
免疫組織中の濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)はリンパ濾胞胚中心の形成に関わり、血液中ではその遷移細胞としてTfh1細胞、Tfh2細胞、Tfh17細胞といったメモリーTfh細胞サブセットになることが明らかとなった。したがってTfh細胞は遷移Tfh細胞への中継ハブとして位置づけられる。我々はBob1(Pou2af1、OBF1)転写制御因子が免疫組織中のTfh細胞に高発現することを見出し、Tfh細胞以外のエフェクターTh細胞にはBob1の発現が認められないため遷移Tfh細胞におけるBob1の機能的役割や、免疫病態との関連に非常に興味が持たれ研究を行った。平成26年度は、主にTfh細胞におけるBob1の機能的意義を検討した。Bob1遺伝子欠損マウスの腹腔に外来抗原としてヒツジ赤血球(SRBC)を投与すると脾細胞中にTfh細胞が検出され、野生型マウスと比較してやや多い傾向があった。この事実からナイーブヘルパーT細胞(Th0細胞)からTfh細胞への初期分化にBob1は直接関与しないが、Tfh細胞のポピュレーション維持への何らかの関与が示唆された。Bob1遺伝子欠損マウスはB細胞の分化障害があるため抗原特異的な抗体を産生できないので、Bob1遺伝子欠損マウス個体ではTfh細胞のB細胞に対する機能を検証できない。そのためTfh細胞やB細胞をセルソーターで単離して培養実験を行った結果、Bob1欠損Tfh細胞は確かに野生型B細胞を活性化できたものの、長期の培養条件下では抗体産生能の低下を来していた。さらに興味深いことにBob1欠損Tfh細胞をPMAや抗CD3抗体で刺激すると、野生型Tfh細胞と比較して細胞が顕著に増殖し、また細胞死が抑制されている結果を得た。以上からBob1はT細胞抗原受容体の感受性を制御することで、Tfh細胞の機能保持に働いていると考えられた(論文投稿中)。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、(1)Tfh細胞におけるBob1の機能的意義、(2) Bob1陽性Tfh細胞から血液Tfh細胞へ至る機能分子群、(3)Tfh細胞マーカーの免疫病理学的意義といった3つの研究計画を掲げた。研究実績の概要で述べたように、この中の(1)の項目に関しては順調に進んできたと考えており、平成27年度も引き続いてマウスモデルによるBob1陽性Tfh細胞の研究を行いたい。今年度はさらに加えて(2)と(3)の研究を推進し、本研究の目的の達成に向かって邁進したいと考えている。(2)と(3)の研究遂行のため、臨床検体を用いたTfh細胞の研究を勢力的に行ったところ、血液中に存在するTfh1細胞、Tfh2細胞、Tfh17細胞といったメモリーTfh細胞サブセットが、免疫アレルギー疾患で機能変容していることを初めて見出し最近報告した(Clinical Immunology 2015)。すなわち呼吸器アレルギー疾患におけるTfh細胞サブセットのプロファイルはTfh2細胞にシフトしており、アレルギー性鼻炎から気管支喘息への増悪には制御性B細胞(Breg細胞)の減少が関与していることが明らかとなった。また我々の解析からアトピー性皮膚炎においてもTfh2細胞シフトが認められることを踏まえ、総じてTfh2細胞へのシフトはアレルギー素因に関係し、Breg細胞の減少はやアレルギー増悪要因として位置づけられると考えた。こうして得られた知見は(2)や(3)の項目を推進するバックグラウンドとなる参照すべき内容を多く含んでおり、本年度の研究推進に役立つことが期待される。
今年度は先に述べたよう(2) Bob1陽性Tfh細胞から血液Th細胞へ至る機能分子群、(3)Tfh細胞マーカーの免疫病理学的意義、の解明に向けて研究を進めたい。Bob1はTfh細胞の機能的マーカーとなることから血液中のTfh細胞サブセットを検証したところ、Tfh1細胞、Tfh2細胞、Tfh17細胞の間には有意な発現差は認められなかったため、Bob1は全ての血液メモリーTfh細胞サブセットの機能維持に働いていることが示唆された。まずはじめに、我々が発見したTfh細胞やBreg細胞に関する内容に基づき(Clinical Immunology 2015)、Tfh2細胞を主体としたTfh細胞サブセットのマイクロアレイ解析を予定している。具体的には健常人とともに免疫アレルギー疾患患者のTfh2細胞を分離し、60Kマイクロアレイを用いてnon-coding RNAを含むトランスクリプトーム解析を行う。対象とする健常人と免疫アレルギー疾患患者は血清アレルゲンテストを行い、臨床的評価を含めた慎重に選考する。得られた結果を別の複数の検体で確認し、遺伝子発現の意義についてさらなる解析を行う。発現プロファイルに関して疾患との関連性が明確となった場合は、免疫関連疾患の免疫組織や血液を対象として研究を推進する。また我々の解析からBreg細胞はTfh細胞の刺激を受けて成熟している可能性があり、扁桃リンパ球を用いた検討を重ねたい。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
Clinical Immunology
巻: 158 ページ: 204-211
10.1016/j.clim.2015.02.016
臨床免疫・アレルギー科
巻: 63 ページ: 214-217
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 455 ページ: 205-211
doi: 10.1016/j.bbrc.2014.10.148.
PLoS One.
巻: 9 ページ: e105498
doi: 10.1371/journal.pone.0105498.
J Biol Chem.
巻: 289 ページ: 22035-22047
doi: 10.1074/jbc.M114.568725.
小児科
巻: 55 ページ: 1077-1084(
http://web.sapmed.ac.jp/immunology/index.html