研究課題/領域番号 |
26670182
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研究機関 | 独立行政法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
竹下 淳 独立行政法人国立長寿医療研究センター, 運動器疾患研究部, 研究室長 (50263009)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 骨吸収 / 骨基質 / 転写因子 / カルシウム |
研究実績の概要 |
マウス骨髄細胞から破骨細胞を分化誘導し、1) BMM(骨髄由来マクロファージ)、2) pOC(単核TRAP陽性プレ破骨細胞)、3) mOCp(プレート上の破骨細胞)、4) mOCd(デンチン上の活性化破骨細胞)、5) mOCdd(脱灰したデンチン上の破骨細胞)、6) mOCpCa(カルシウム添加プレート上の破骨細胞)、7) mnOCsp(低接着性プレート上の単核破骨細胞)、8) mOCsp(低接着性プレート上の多核成熟破骨細胞)の8種類のRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行った。破骨細胞においてカルシウムや骨基質により発現上昇する遺伝子を検索し、発現特異性を解析した。 その結果、インテグリンαv (Itgav)とβ3 (Itgb3)の発現は骨基質とカルシウムの両方で発現が上昇した。骨吸収機能に関与するAcp5 (Trap)、Atp6(13種類)、Car2、Clcn7、Ctsk、Mmp9は骨基質やカルシウム添加による変動はなかった。カップリング因子であるC3とCthrc1の発現はカルシウムで上昇した。Pdgfaは骨基質とカルシウムで発現上昇した。破骨細胞特異的遺伝子であるCalcr、Casr、c-fms、Dcstamp、OscarやRankには変化がみられなかったが、Trem2とCalcrはカルシウムによりそれぞれ4倍と2.5倍に上昇した。転写因子であるAtf3とAtf7の発現はカルシウムでそれぞれ4倍と5倍に上昇した。そこで、BMMにAtf3とAtf7を強制発現させ破骨細胞に分化させた後にカルシウムで発現制御される遺伝子を解析したところCalcr、Itgb3及びCthrc1のいずれも発現上昇した。これらのことから破骨細胞において細胞外カルシウム濃度の上昇によりAtf3/7の発現上昇を介してCalcr、Itgb3やCthrc1遺伝子の転写活性を促進することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
破骨細胞分化、及び骨吸収機能に重要な要素として骨基質内に含まれ骨吸収により骨基質から遊離するカルシウムと骨基質タンパクに着目し、骨吸収により制御される遺伝子群を網羅的に解析し、カルシウムにより発現誘導される遺伝子を複数同定した。さらに、カルシウムにより発現上昇する2つの転写因子であるAtf3とAtf7を同定し、これらの転写因子が破骨細胞の機能に必須なものとして知られているインテグリンβ3 (Itgb3)やカルシトニンレセプター (Calcr)のみならず、申請者が骨カップリング因子として同定したCthrc1とC3の発現を制御するとこを明らかにした。 これまでに骨吸収により制御される転写因子に関する報告はなく、申請者が見出したことは極めて新しい発見である。
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今後の研究の推進方策 |
Atf3はbZIPファミリーに属する転写因子であり、痛みに関するマーカー遺伝子として知られている。Atf3ノックアウトマウスは正常であり、生体防御の維持に重要であることが知られているが、その他の機能についてはほとんど分かっていない。本研究課題によりAtf3/7が細胞外カルシウム濃度の上昇により発現上昇し、骨吸収機能に重要な遺伝子発現を制御することが明らかになったので、次にこれらのことが骨吸収のトリガーになるのかどうかを検証する。特にインテグリンαv/β3はビトロネクチンの受容体として知られており、破骨細胞の重要な分化マーカーとして知られているが、カルシウムによる発現制御を受けていることは知られていない。このインテグリンが骨基質のみならずハイドロキシアパタイトを認識し骨吸収のトリガーとして働いているという仮説を実証する。また、このインテグリンの発現制御にAtf3/7がどのように関与しているのかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった細胞培養用試薬及び分子生物学用試薬は実験の都合上少量のみでだったので来年度に繰り越した。国内学会参加予定はキャンセルのため不参加となり、来年度の研究打ち合わせのために使用する。高額の骨解析はマウスの数が準備できなかったので平成27年度に使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物学用試薬及び細胞生物学用試薬で約190万円、骨解析で約94万円、及び旅費で約10万円を使用する。
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