本研究では、骨髄造血幹細胞ニッチを構成するとされるCXCL12陽性間質細胞とMDS腫瘍細胞の相互作用や病態との関連性についての検討を行っている。本年度は、前年度までの結果を踏まえたうえで、よりヒトMDS骨髄に近い環境でのCXCL12産生性間質細胞と血球細胞の相互作用による影響を解析するため、ヒト骨髄由来のCXCL12産生性間葉系幹細胞であるUE6E7T-2細胞とヒトMDS骨髄由来の血球細胞株であるSKM-1細胞を共培養して血球側のアポトーシス応答を解析した。その結果、前年度までのマウス間質細胞を用いた実験結果と同様、共培養下ではSKM-1細胞において抗アポトーシス分子であるBCL-2やBCL-XL分子の発現が増加した。さらに抗癌剤であるAra-Cを用いて薬剤耐性についても検討したところ、共培養下ではSKM-1細胞においてAra-Cにより誘導されるアポトーシス応答は抑制され、薬剤耐性が示された。これらの変化はともにCXCR4アンタゴニストであるAMD3100投与にて阻害されたことから、ヒト細胞株においても共培養における抗アポトーシス効果にCXCL12-CXCR4シグナルが関与していることが示唆された。 ここまでの研究結果から、CXCL12陽性細胞との相互作用により血球側のアポトーシス耐性の獲得が示されてきた。そこでCXCL12陽性細胞とMDSの病期進行との関連性についても検討した。一般に、MDSは病初期には血球のアポトーシスにより汎血球減少を示すが、病期進行に伴ってアポトーシス耐性が獲得され白血化に至るとされる。前年度までに施行した骨髄免疫染色結果に予後解析を追加したところ、CXCL12発現の高い初期MDS症例ではCXCL12発現の低い症例に比べて病期進行が早い傾向が示され、CXCL12発現と予後の関連性が示唆された。
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