研究課題
はじめに:ヒト組織内のDNA付加体分布をしらべるために、胃がん、大腸がんなどの非腫瘍部粘膜を複数箇所採取し、その網羅的DNA付加体解析(アダクトミクス解析)を行った。また、腫瘍部のエクソーム解析dataの付帯した肝細胞癌例の非癌部について、アダクトミクス解析を試み、主成分解析で、原因別の群にわかれるかどうかを検討した。方法:胃がんの根治手術で摘出された胃粘膜(日本)面から、粘膜組織を1例あたり3-20箇所について、その腫瘍からの距離別、幽門部、胃体部、噴門部といった胃の位置別に採取する。そこから、酸化防止剤存在下にでDNAを抽出する。DNAはmicrococcal nucleaseで分解したのちに、イオン化させ、ペントースの部分、分子量116分をのぞき、tandem に質量分析で分離したあと、liquid chromatography(LC) で物質を同定する。同定には、文献的に変異原性や発がん性が既知である174種類の修飾塩基を含む物質の分子量(実際にはmass/charge)とLCのretention time を4000Q TRAP (ABI)に設定することにより、LCにおけるpeak値とその下の面積で相対量を得る。この解析の結果、胃がんの非腫瘍胃粘膜、と剖検非胃がん例の胃粘膜とではアダクトの様相(アダクトーム)が異なり、胃がんの非腫瘍部に多く見られる付加体が10種以上同定された。その中には、アルキル化など発がん機構が示唆されるようなもの、アルデヒド代謝に関わるようなものなどがあった。胃粘膜の部位別アダクトミクスにより、胃がん部位と距離が短くなるほど量の多い付加体も見いだされ、filed cancerizationといった目でみると、粘膜上の発がん機構の手がかりとなるものであった。個別のヒト発がんの原因・あるいはその予防にリアリティのある所見を呈するものと考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
当初比較的少数(20種類くらい)の付加体の検討を行う予定であったが、付加体の化学的情報を入力することで、いちどに174種、おそらく、情報をさらに入力すればさらに多くのものが一度に同定できると考えられ、想定以上に探索範囲は広がっている。また、エクソーム解析についての情報が論文が2014年漸く発表されopenになり、個別のsignatureと比較しつつアダクトーム解析が行えるようになった。また、胃粘膜の部位だけでなく、肺がん、肝がんといった多臓器の採取なども、さらに、ESD を行う内視鏡検査時の検体についても、臨床チームと共同で進めることができ、IRBの認可もおわり、実際的な前向きあるいは予防のための基礎的dataがとれるようになった。実際には生検材料だと2-3個でアダクトーム解析ができるようであり、もちろん、生検時のリスクやその対応などについても十分な議論ができるようになり、徐々に症例を集積している。DNA付加体と変異シグネチャーとの関連は、古くは、がん原物質とp53の変異spectrumといった文脈で、タバコ関連肺がん、UV関連皮膚がん、アフラトキシン関連肝がん、アリストロ酸関連尿路がんなどが知られている。DNA付加体の網羅的解析は、変異のゲノムワイドな解析(変異シグネチャー)と呼応するものであり、ヒトがんの原因に大きな手がかりを与えることがわかった。個別の具体例について深く機構を解明したり、profileから予防戦略をたてるといった発展が考えるので、現在この萌芽研究をもとに、より大規模な基盤研究を応募中である
DNA付加体の定量のために、有機化学者とくに合成の専門家と共同で個別にヒト組織で見いだされた付加体について精査する必要がある。また、DNA付加体がゲノムのどこに存在するかは発がん機構の上で大変重要であり、そのために抗体によるAdduct DN immunoprecipitaionや、single molecule real time sequenceといった次次世代といわれていたシークエンサーなどを活用できる共同研究を策定構成して、本研究を推進していく。また、胃生検などで、際だった発がん可能性のある付加体が見いだされた場合のsurveillanceのやり方、炎症関連発がん動物モデルなどとの比較とその意義などを行いたい。ごく最近、胃がんの体細胞変異signatureから胃がんを4つに分類するという提案がされている。これらのものと対応されるとヒトがんの原因による分類・それによる個別予防をめざして共同研究体制を構築したい。
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