研究課題
本研究の目的は、がん細胞の集団的浸潤の分子機構を解明することである。がん細胞の集団は、腫瘍の組織型によっては、先頭のleading cellとそれに続くfollowing cellに分けて考えることができるが、本研究ではleading cellに特異的な遺伝子発現パターンの解明を目指す。がん細胞を島状に培養すると前方に細胞間接着を有さないインテグリン陽性のleading cellに相当する細胞が増え、leading cellに特徴的な遺伝子発現が増強するという私達の研究結果(モノレイヤーカルチャーモデル、Kato et al., Cell Reports, 4:1156-1167, 2014)に基づき、シート状と島状に培養した皮膚がん細胞株A431細胞で遺伝子発現を網羅的に比較した。同細胞を用いたwound healing assay(スクラッチアッセイ)でも時間依存的に発現が上昇する遺伝子群を網羅的に解析し、上記二つの実験で共通して発現が上昇する膜分子群を選択した。現在複数の分子群について免疫染色により実際のがん組織における発現部位の解析を行っている。一方、神経芽細胞の集団的移動の制御分子Girdinの結合分子群の同定により、がん細胞の集団的浸潤の機序を解くというアプローチでは、免疫沈降法と質量分析を用いた生化学的解析から細胞接着に関わるとされる新規Girdin結合タンパク質を同定した。両者の精製タンパク質を用いて結合に関与する責任ドメインの同定も行った。今後は、本分子複合体が集団移動において果たす役割を細胞生物学的手法で解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定どおり、申請者らのモノレイヤーカルチャーモデルに基づいた遺伝子発現の網羅的解析および候補分子の絞り込みは終了している。また細胞接着に関わるGirdinの新規結合分子も生化学的手法により同定した。これまでは概ね計画通りに進展しており、今後は各候補分子の機能解析に移行する予定である。
leading cellに特異的な遺伝子発現パターンの解析では、本年度に同定した分子群が病理組織検体でもleading cellに相当する部位に発現しているか確認する予定である。RNA干渉あるいはゲノム編集によって各候補分子およびGirdinの新規結合分子の発現を抑制し、培養皿上での挙動を観察する。また各候補分子のノックダウンにより、がん細胞とがん関連線維芽細胞のco-cultureによる集団的浸潤がどのように障害されるか検討する。
本年度はモノレイヤーカルチャーモデルに基づいた遺伝子発現の網羅的解析および候補分子の絞り込みを複数のがん細胞種で実施する予定であったが、A431細胞のみを用いた検討で比較的明瞭かつ良好な結果が得られたため、それ以外の細胞種では同様の検討を行わなかった。また候補分子の絞り込みの際の指標を得るために行った免疫染色で用いた病理組織標本の数も限られたために、各種消耗品の使用量なども限られたものとなった。Girdinの結合タンパク質の同定では、アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体等の試薬が当初の予想よりも少量で実施可能であった。
病理組織標本を用いた解析を進展させるために、数多くの病理検体を搭載した組織アレイの購入費用等にあてる予定である。また候補遺伝子の絞りこみについてもその対象分子の範囲を広げたいと考えており、そのための抗体購入あるいは免疫染色のための消耗品試薬に使用する予定である。細胞の集団的移動をリアルタイムに観察するために細胞を蛍光プローブでラベリングする必要があり、そのための消耗品費用等に用いる予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
EMBO J
巻: 33 ページ: 1156-1167
10.15252/embj.201488289