研究実績の概要 |
体細胞に特定の転写因子を導入することによって目的の機能細胞を作り出すダイレクト・リプログラミング法が注目されている。本手法は迅速性に優れ、がん化リスクも低いため、新たなテーラーメイド医療や再生医療の切り札として期待されている。しかし、その分化転換の効率と精度の改善が重大な課題として残されている。我々は最近、特定の細胞間接着分子クローディン‐6(Cldn6)が胚性幹細胞の上皮分化を誘導することを突き止めた。そこで本研究では、細胞間接着シグナルを利用した全く新しいダイレクト・リプログラミング法を開発し、分化転換の効率と精度の飛躍的向上を目指そうという着床に至った。平成26-27年度には、以下の研究を行った。 1)肝細胞へのダイレクト・リプログラミングが期待される複数の細胞間接着分子について、発現ベクターを構築した。具体的には、各種Cldn分子(Cldn1, 2, 3, 4, 5, 6)のN末にGFPまたはCherryを融合させた発現ベクター、N末に3xHA tagを付加した発現ベクターを作製した。 2)各分子のレンチウイルスベクターを構築した。作製したレンチウイルスベクターをHEK293T細胞に導入し、各種の細胞間接着分子の発現を確認した。胎生16日目のマウスから採取した線維芽細胞MEFを培養し、細胞間接着分子のレンチウイルスベクターを導入したが、明瞭な細胞形態の変化は観察されなかった。 3)次に、肝細胞へのダイレクト・リプログラミングが報告されている転写因子群(HNF1, HNF4, FoxA3)をクローニングし、発現ベクターを作製した。これらのウイルスベクターをMEFに導入したところ、肝細胞へのダイレクト・リプログラミングが観察された。しかし、Cldn1, 2, 3, 4, 5, 6導入による肝細胞への分化転換効率の明らかな向上はみられなかった。
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