がん組織を構成する細胞は均一では無く、異なった性状を持つ細胞群から成るヘテロな集団であることが知られている。この現象は「がんの細胞不均一性」と呼ばれ、がん細胞に起こる遺伝子変化、さらにはがん幹細胞を頂点とする細胞分化などの要因により惹起されると考えられている。しかし、実際のがん組織がどのような種類の細胞群から構成されるかに関しては、現在まで主に免疫染色等の手法に基づき分類されているに過ぎず、その詳細は不明な点が多い。さらにがん発生の本質とも考えられる幹細胞群のがん化に伴う変化、不均一性に至っては、その本格的な解析がこれまで行われていない。 本研究はがん組織を構成する細胞それぞれの個性をシングルセルqPCRという新しい実験手法を用いて解析しがんの細胞不均一性に対する理解を飛躍的に高めること、さらにシングルセル遺伝子発現解析により明らかになった様々な細胞集団の中で特に幹細胞群の挙動に着目し、がん化に伴う幹細胞の変化という着眼点からがん発生メカニズムの解明を試みることを目標に実施されている。 本研究課題の研究成果として我々は、MinマウスDSS誘導大腸発がんモデルを用い、がん部及び非がん部を構成する上皮細胞群をそれぞれの遺伝子発現プロファイルに基づき機能的に異なる7種の細胞群に分類する事に成功し、階層的クラスタリング法、主成分分析法などの手法を用い細胞のヘテロジェナイティー地図を作成した。さらにここで見いだされた細胞多様性の大腸発がんに伴う変化を解析し、吸収系及び分泌系細胞群それぞれの様々な分化段階に於ける細胞分布どのように変化するのか、正常幹細胞はどのようにがん幹細胞へと変わってゆくのかを遺伝子発現レベルで明らかにした。さらにがん幹細胞のヘテロジェナイティーを明らかにし、Wntシグナルのパターン形成に於けるTCF/LEF転写因子群の役割を解明することに成功した。
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