オオシスト培養:前年度に作製したAP2-OC発現コンストラクトを血液ステージで野生型原虫に導入し、限界希釈法でクローン化し、遺伝子組み換え原虫を作製した。次にこの原虫からオオキネートステージを精製しオオシストの培養を実施し、オオシスト形成に及ぼす転写因子誘導の効果を評価した。 対照としては野生型原虫を用いた。培養した組み換え原虫を顕微鏡下で観察したところ、組み換え原虫オオシストはその直径が野生型より大きくなっていた。しかしながら培養最初期における転写因子誘導の効果の重要な指標と考えていた核の分裂の進行は、野生型同様不十分なままであった。そこで実際AP2-OCがオオシスト期にどのような遺伝子群を活性化しているかを確認するためChIP-seq法で全標的遺伝子の同定を試みた。ChIP-seqはGFP融合AP2-OC発現原虫が感染した蚊中腸を用いて実施した。解析の結果、標的遺伝子は数百個同定されたがゲノムDNAの複製やmitosisに関与する遺伝子を誘導している証拠は得られなかった。このことからオオシストスポロゾイトの形成にはAP2-OCに加え別の転写因子が必要である可能性が示唆された。DNAの複製やmitosisは他のステージでもみられる。血液ステージでも同じ転写因子がDNAの複製やmitosisに関与している場合、遺伝子ノックアウト原虫は作製できない。したがってこれまでオオシストステージでの機能を見落としてきた可能性がある。今後GFP融合蛋白発現原虫を用いて他の転写因子のオオシストでの発現を確認する予定である。目的の転写因子の発現が確認できた場合、ChIP-seq等を実施した後、今回作製した組み換え原虫内で強制発現させることで本技術を完成に近づけたい。
|