アフリカトリパノソーマの生活環特異的に細胞表層の表面抗原が劇的に変化することによって寄生適応および病原性を制御する原虫の生命現象を明らかにするために,申請者は原虫で未だ解っていない小胞体とゴルジ体間の選別輸送機構について解明すること,更にその部位に作用する天然物の探索を行うことによって,本課題を進めている。 前年までにアフリカトリパノソーマにおいて,細胞表層の主要構成成分である表面抗原のGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)の積荷受容体と考えられるp24ファミリーが少なくとも9種類存在すること,α~δの4つのサブファミリーの内,βが1種類存在することを突き止め,それが機能的な因子であることを我々が構築した酵母変異株を用いた機能相補システムおよび原虫遺伝子への変異導入実験によって明らかにしている。βサブファミリーは酵母p24ファミリーの積荷認識機能において中心的因子として機能する可能性を我々の以前の研究で示していた。 平成28年度は,昨年度に同定したアフリカトリパノソーマ由来のp24ファミリーにおけるβサブファミリーの発現誘導原虫および遺伝子欠損原虫を作成した。他のグループによるほぼ全ゲノムに対する網羅的RNAi解析では該当遺伝子に対する表現型が現れなかったものの,遺伝子欠損株は強い増殖遅延の表現型を示す結果が得られた。これまでの酵母または動物細胞での解析で顕著な表現型が示されていなかったものの,トリパノソーマにおいてp24ファミリーが生理的に重要な因子であることが本研究結果から解明された。一方,申請者の研究所で保有する化合物ライブラリーを用いてトリパノソーマの小胞体またはゴルジ体の選別輸送系を標的とする化合物の探索を行い,ゴルジ体の選別輸送系で働く酵素を標的とする新規物質Xを同定した。Xは表面抗原タンパク質の選別輸送に作用し,その病原性を制御することが示唆された。
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