研究実績の概要 |
今年度は主に抗マラリア薬クロロキン(CQ)暴露による突然変異頻度とDNA損傷への影響を調べた。 まずシャトルベクターをエピソーマルに保持するトランスジェニック原虫に対しCQ30nMを含む培地で48時間の暴露を行いシャトルベクターを回収、大腸菌の系に戻して突然変異頻度を測定した。対照群はCQを含まない培地で培養した原虫を用いた。結果、対照群の突然変異頻度 6.1±1.8 x 10(-7)に対し、CQ処理群は46.0±15.6 x 10(-7)と約7.5倍の上昇が確認された。変異レポーターrpsL上の変異スペクトルは、CQ処理群では一塩基置換変異(217A>C)ならびに167bpの欠損変異が対照群と比べ有意に上昇していた。しかし再現実験では突然変異頻度は試行毎に異なり、時として対照群の方が高い突然変異頻度を呈する場合もあった。 次に抗マラリア薬への暴露によるマラリア原虫のDNA損傷をコメットアッセイにより調べた。熱帯熱マラリア株FCR3トロフォゾイト期に対しCQ濃度0, 30, 300, 3,000nM, 4時間の処理をし、直ちに洗浄後コメットアッセイを行ったところ、300nM, 3,000nM処理群において明瞭なDNA損傷が確認された一方、0, 30nM処理群では差はなかった。CQ4時間の暴露100nM程度までの濃度では細胞毒性を示さないが300-500nMに至ると約30%の成長阻害率を示すことが知られており(Yanou et al. 1983; Ch'ng et al. 2010; 2011; 2014)、また修復酵素hOGG1とコメットアッセイを組み合わせた予備実験では酸化損傷がCQ30nMの暴露で検出されたので、CQ暴露によるDNA損傷と突然変異頻度の相関を調べるためにはCQ30-300nMの範囲を精査していけば良いことがわかった。
|