研究課題/領域番号 |
26670217
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池 郁生 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 専任研究員 (40183157)
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研究分担者 |
小久保 年章 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 研究基盤センター, 課長 (10425663)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CARバチルス / Filobacterium rodentium / グラム陰性菌 / 呼吸器感染症原因菌 / マウス / ラット / ゲノム編集 / 細胞付着機構 |
研究実績の概要 |
CAR(カー)バチルスはマウス・ラットの呼吸器上皮に主に感染し慢性炎症を起こすフィラメント状グラム陰性桿菌である。培養が困難とされたが我々は哺乳類培養細胞の上清を用いて本菌の液体培養に成功し、CARバチルスの完全ゲノム配列を世界ではじめて決定した(全長1,439,084 bp、環状)。ゲノム解析から約1,200のコード領域が推定されたが、その3分の1は機能未知で、病原因子を始めとした多くの情報が不明である。本研究ではゲノム解析を進め、本菌遺伝子の変異株を作成し、滑走運動をモデルに本菌の上皮細胞付着因子を決定することを目的とした。 平成27年度は、ゲノム情報の解析を進めるとともに、CRISPR/Cas9を利用するゲノム編集法を検討した。遺伝子改変法をトランスポゾン法から変更するための組換えDNA実験委員会承認に時間がかかった。また、実験室の空調機が長期にわたり故障してその間、遺伝子改変実験ができず、遺伝子改変実験の遂行が困難となり計画を1年間延長した(日本学術振興会申請許可済み)。現在は故障に対応し、DNA実験委員会の承認も得たため、平成28年度において研究を進めたい。 実験ができない間に本菌の学名を制定する作業を行った。理研BRC微生物材料開発室(JCM)の坂本光央研究員の協力を得て、我々が培養可能としたCARバチルスSMR-C株をJCMに寄託し、同株の塩耐性、至適生育温度、生化学性状や脂質成分分析を行い、2種類の異なる方法による16S rRNA遺伝子配列の系統樹解析を進めた。このSMR-C株が既報のいかなる細菌種とも異なる新種であることを新科・新属レベルで提案し、本菌をFilobacterium rodentiumと命名した(基準株はSMR-C)。 平成28年度は当初の目的にもどり、CRISPR/Cas9を利用するゲノム編集法を使ってCARバチルスの持つ酵素遺伝子の欠損株作成を試す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
CARバチルス変異株作成のための遺伝子改変手法について再検討し、CRISPR/Cas9を利用するゲノム編集法に変更するための組換えDNA実験委員会における承認に時間が必要だった。また、実験室の空調機が故障して長期にわたりCARバチルスの遺伝子改変実験ができなかった(既に修理対応済み)。平成28年度はゲノム編集法を採用することによって効率よく遺伝子変異が導入でき、今後は変異株樹立までの時間短縮を見込むことができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
CARバチルスSMR-C株の滑走運動分子欠損株作成のための遺伝子改変手法について、時間と労力がかかるトランスポゾン法をいったん中止して、CRISPR/Cas9を利用するゲノム編集法に変更した。ゲノム編集法確立のためのトライアル候補遺伝子にはSMR-C株の持つ酵素を選び、発色反応により遺伝子の発現があることを確認した。 CRISPRdirect (http://crispr.dbcls.jp)を用いてCas9のターゲットとなる遺伝子配列を検索し、Local BLASTでSMR-C株ゲノム内に他の相同配列が無く、制限酵素認識配列を含むものを選んだ。当該配列を用いてガイドRNAの設計を行なった。ガイドRNAは合成したものを使用し、Cas9酵素は市販のものを用いる。今後、浮遊培養したSMR-C株にエレクトロポレーションでガイドRNAとCas9酵素を導入し、液体培養で増殖したものを限界希釈して96穴プレートに分注し、レプリカを取った上で、各ウエルの酵素活性の有無を判定する。酵素活性を失ったウエル中の菌は固形培地上でクローニングして欠損株を選んだ後、当該遺伝子領域の塩基配列を決定して確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
CARバチルスの滑走運動遺伝子欠損株作成のための遺伝子改変手法について再検討し、当初予定のトランスポゾン法をいったん中止してCRISPR/Cas9を利用するゲノム編集法に変更したため、組換えDNA実験委員会における承認に時間がかかり、また実験室の空調不具合のため遺伝子改変実験が長期にわたってできず、計画遂行が平成28年度にずれこんだため。
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次年度使用額の使用計画 |
CRISPR/Cas9関連試薬購入、菌の培養観察に必要な培養器や培地類の購入等に用いる予定である。Cas9認識配列およびガイドRNA作成用のDNAは人工遺伝子で作成する。Cas9は酵素そのものを用いる。SMR-C株へのガイドRNAならびにCas9酵素の導入はエレクトロポレーションで行なう。
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備考 |
CARバチルス SMR-C株に新科・新属・新種としてFilobacterium rodentiumという学名を付けた論文が採択されたため、プレス発表した。
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