研究課題/領域番号 |
26670219
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮崎 健太郎 独立行政法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60344123)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リボソーム / スペクチノマイシン / 抗生物質 / 耐性 / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
大腸菌内で機能する異種生物由来16S rRNAのうち、抗生物質耐性を示す遺伝子を獲得する目的で、まず、種々の環境より調製した環境ゲノムを鋳型に16S rRNA遺伝子をPCR法により増幅した。この際、増幅プライマーとしては、遺伝子開始直後に位置する系統群ごとに特徴的な部位を含むもの、含まないものの2種類を用い、ミスマッチの影響を合わせて解析した。 ゲノムデータベースに登録されている遺伝子情報からは、大腸菌の属するγープロテオバクテリア細菌は、19番目の塩基としてAを有するものが多く、その他の系統群ではCを有するものが多い。この塩基は916番目の塩基と対合しているが(19A-916Uまたは19C-916G)、本来の組み合わせと異なる場合、機能に影響が出る恐れがある。そこで、19A-916Gまたは19C-916Uとなる人工的な16S rRNAの機能を配列既知の微生物由来の16S rRNAを用いて評価した。その結果、塩基対の組み合わせによってはリボソーム活性をほぼ失うものや、温度感受性の変化するものなどが出現した。さらに興味深いことに、リボソーム攻撃性の抗生物質に対して耐性を示すものが出現した。 上記検討とは別に、ミスマッチを含まないように設計したプライマーを用いて得た16S rRNA遺伝子のうち、大腸菌欠損株内での機能相補性、引き続いて様々な抗生物質存在下で耐性スクリーニングを行ったところ、新規変異を見いだすことができた。取得したクローンにつて塩基配列解析を行った結果、微生物の起源としては、γープロテオバクテリアのものや門レベルで異なるものが含まれていた。抗生物質の種類としては、同一ライブラリーをスクリーニングした場合にも、スペクチノマイシンとG418耐性を示すものが最も多く、さらにいくつかの薬剤に対して多重耐性を示すものも存在した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題では、天然に存在する新規な変異点、変異パターンを網羅的にスクリーニングすることを主眼としている。これに対し、環境ゲノムからの16S rRNA遺伝子増幅効率のさらなる拡大を意図して行ったプライマーの検討を通じ、人工的に発生した変異(ミスマッチ)による耐性の出現という当初想定していない結果を得ることができた。これは従来知られていない変異点、変異パターンであり、当初計画を超えた発見をすることができた。 また、ミスマッチを含まないように設計したプライマーを用いて環境ゲノムをスクリーニングしたところ、まず機能相補可能な微生物期限として、大腸菌(プロテオバクテリア門)とは門レベルで異なるバクテリア由来の16S rRNAで機能相補可能なことを発見した。さらに、薬剤耐性の観点でスクリーニングした結果、新規な耐性変異や変異パターン、従来よりも耐性の高い遺伝子などが見出された。また、別々の耐性変異と思われるものが組み換えにより一つの遺伝子に組み合わさったと推定される多重耐性遺伝子も見出された。 酵素などをコードする薬剤耐性遺伝子などでは、遺伝子変異による薬剤スペクトルの拡張や、耐性レベルの向上などがよく知られており、また一つのプラスミド上に複数の耐性遺伝子がコードされることによる多剤耐性化なども知られているが、組み換えが起きると思われていない16S rRNA遺伝子において、一つの遺伝子が組み換えにより多機能化するということが真実であれば、耐性発現の新たなメカニズムとして16S rRNAの進化についての学術的な新発見とともに医学的な見地からも多重耐性についての新たな視点を与えるという点で意義深いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
すでに獲得したクローンについて、耐性を与える変異点を絞り込む。既知変異と類似のものであれば一塩基置換などで容易に確定することも可能であるが、16S rRNAの置換という大きな摂動を与えているため、新たなメカニズムに基づく耐性の出現も考えられる。Site-directed mutagenesis以外にドメインレベルでの組み換えやDNAシャッフリングなどの手法により可能な限り耐性に関わる領域を絞り込みたい。 獲得された16S rRNAとその変異体について、薬剤耐性の程度や薬剤スペクトルを解析する。基本的には生育に基づく耐性の確認を行うが、リボソーム活性の観点から、in vitro systemやo-ribosomeなどを用いて、タンパク質合成に対しての効果も検討する。 上記研究を進めると同時に、新規なスクリーニングも継続する。とくに、生物密度の濃い環境から得た場合、生物感相互作用が活発なため、薬剤耐性などが見つかる頻度も高いと思われる。こうした観点から環境を選択する予定である。
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