抗生物質耐性機構の解明は、細菌感染症の予防・治療にとって極めて重要な研究課題であり、最近では耐性遺伝子の網羅的解析(レジストーム解析)が盛んに行われている。しかし従来の研究では、解析対象が分解酵素や排出ポンプ等に限定されており、抗生物質の標的分子の代表格であるリボソームなどは解析対象となっていない。これはリボソームの機能解析が本質的に困難なことが一因である。とくに、rRNA遺伝子の変異による耐性の場合、rRNAオペロンがゲノム内に複数コピー存在する(例えば大腸菌では7コピー)ため、1コピーの変異では耐性(表現型)が現れないことが多く、潜在的な耐性変異があっても知られていないと推察される。こうした状況の中、我々は、rRNAの機能解析技術として、大腸菌のrRNAオペロン欠損株(Δ7株)を用いる方法を開発した。 本研究では、大腸菌のrRNA オペロン欠損株(Δ7株)を用いた単一rRNA オペロン機能解析技術に基づき、異種微生物由来の16S rRNA 遺伝子の機能を生育相補性、さらに薬剤耐性に関するスクリーニングを行った。まず、種々の細菌由来の16S rRNAの機能解析を行うにあたり、環境ゲノムを鋳型に16S rRNA遺伝子をPCR増幅するが、その際に用いるプライマーを再設計した。改良したプライマーを用いてライブラリーを構築し、Δ7株相補株を獲得した。 数万規模の16S rRNA遺伝子欠損の相補株を抗生物質耐性に基づきスクリーニングした結果、アプラマイシン(1株)、スペクチノマイシン(4株)、テトラサイクリン(2株)、G418(10株)について耐性株が得られた。耐性クローンが有する16S rRNA遺伝子の配列解析、耐性に寄与すると思われる塩基の大腸菌16S rRNAへの導入などを行い、耐性の実態を明らかにしている。
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