研究課題/領域番号 |
26670225
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
朝長 啓造 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (10301920)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ウイルス / 細胞核 / RNA / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
ウイルスに対する自然免疫応答は、宿主細胞に感染したウイルスを細胞内のセンサー分子により認識することで開始される。これまでに、宿主細胞に侵入したウイルス由来核酸を感知するセンサー分子が数多く同定され、その特異性も明らかにされてきた。しかしながら、そのほとんどはエンドゾームを含む細胞質に存在する分子であり、核内に存在するウイルス核酸に対しては機能しないことが示されている。一方で、核内でのウイルス認識に関しては、唯一、DNAウイルスであるヘルペスウイルスを認識して、免疫応答を誘導する因子が報告されている。しかしながら、インフルエンザウイルスやボルナウイルスなど、細胞核で増殖するなどのRNAウイルスがどのように核内で認識され、宿主細胞の防御反応が惹起されるのかについては全く明らかになっていない。そこで本研究では、インフルエンザウイルスやボルナウイルスなどの細胞核で増殖するRNAウイルスがどのように核内で認識され、細胞の防御反応が惹起されるのかを明らかにすることを目的に行われた。これまでにボルナウイルスのP蛋白質と直接結合する宿主因子であるHMGB1が、ヘルペスウイルスに対する核内ウイルスセンサーであるIFI16とも相互作用していることを明らかにしている。そこで本年度は、IFI16がボルナウイルスの感染をも認識できるのかについて検討を行った。その結果、IFI16をノックダウンさせた細胞では、ボルナウイルスの複製効率が上昇し、IFI16の発現がボルナウイルスの核内複製を抑制していることが明らかとなった。また、IFI16が欠損した細胞では、細胞質中に認められたウイルス蛋白質の凝集塊の数が減少し、ウイルスの認識にIFI16が機能している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ボルナウイルス感染に対するIFI16の役割については、ノックダウンやノックアウト細胞を作製することで、ある程度の機能が絞れてきた。また、計画していたボルナウイルス持続感染細胞核内におけるIFI16とボルナウイルスRNPとの相互作用に関しては、免疫沈降法ならびに蛍光抗体法によって示されつつある。これらの結果は、本年度の計画に沿ったものであり、計画どおりに実験がおこなわれ、得られた成果に関しても当初の予想を大きく逸脱することなかった。その意味において概ね計画は達成できたものと考えている。一方で、本年度に計画していた核内でボルナウイルスRNPを認識する新たな分子の同定に関しては、現在解析は途中段階である。候補分子の絞り込みがまだ行なわれておらず、今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記の核内でボルナウイルスRNPを認識する新たな分子の同定に向けた解析を進めるとともに、引き続きIFI16のウイルスRNA認識機構と抗ウイルスシグナルへの関与を明らかにする。具体的には、IFI16によるウイルスRNA認識がどのような抗ウイルス応答を引き起こすのかを、網羅的なマイクロアレイ解析を用いて検討する予定である。IFI16、もしくはHMGB1を欠損させた感染細胞、そして非感染細胞でのコントロール細胞を比較することで、IFI16依存的に感染細胞で活性が上昇する抗ウイルスシグナル応答を突き止める。また、インフルエンザウイルスRNPとIFI16との相互作用も明らかにする。IFI16 欠損細胞を用いたインフルエンザウイルス感染を行い、ウイルス増殖ならびに抗ウイルス活性を明らかする。さらに、上記で明らかにしたIFI16に依存した抗ウイルスシグナル応答に着目して、インフルエンザウイルスの増殖を検討する。ボルナウイルスとインフルエンザウイルス感染における抗ウイルス応答の差異を明らかにし、急性感染や持続感染などの感染形態の違いから検討を進める。
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