研究課題
A型インフルエンザウイルスのRNA遺伝子の合成を担うRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA-dependent RNA polymerase;RdRp)には、遺伝子の転写・複製時のミスを修復・校正する機能が備わっておらず、その遺伝子変異率は、DNAをゲノムとする生命体と比べて極端に高い。この遺伝的特性は、多くの子孫ウイルスが感染・増殖性を失うリスクを負う一方で、遺伝的多様性の観点からは、宿主免疫からの回避や新たな宿主への適応、薬剤耐性化などの面で大きなメリットとなる。しかし、その分子基盤は明らかになっていない。本研究では、A型インフルエンザウイルスの遺伝子変異率を規定する分子基盤を解明することを目的として、PB1蛋白質に備わる4つのRdRpモチーフ(全てのRNAウイルスに幅広く保存され、RNA遺伝子の転写・複製過程において中心的な役割を担う)のコード領域にランダムな変異を持つウイルスライブラリーを構築し、その中から遺伝子変異率が大きく上昇したウイルスを6クローン、低下したウイルスを3クローン、各々選抜した。各ウイルスクローンの変異部位を遺伝子解析により特定し、その遺伝子変異率の野生型ウイルスとの差異をレポーターアッセイにより確認した。以上の結果から、本研究で同定されたアミノ酸変異は、A型インフルエンザウイルスの遺伝子変異率を規定している可能性が示唆された。今後、各ウイルスクローンの遺伝子変異率をより直接的な方法で検証することにより、本研究の発見の重要性が増すと考えられる。
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