末梢血単球からのサイトカイン産生を抗炎症型にスイッチさせる単クローン抗体の作用機序を解析していたところ,意外なことにこれが血小板と単球との結合を仲介していることを発見した。さらに本IgGが活性化型シグナルを導入するとされているFcγレセプターであるFcγRIIAである可能性が阻害抗体実験等で示された。即ち,血小板に結合したIgGが単球FcγRIIAを刺激することで,本来は細胞内シグナルに対して活性化型のレセプターであるFcγRIIAが「抗炎症経路」に変換されることが示された。本研究では血小板上の分子の特異性,単球サブセットであるInflammatoryとResidentのいずれが応答するのかを明確にしたうえ,極めてポリクローナルな自然抗体IgGのプールであるγグロブリン製剤(Intravenous Ig; IVIg)がこの抗炎症経路を刺激するか否かを検証した。本研究はこれまで重要な生理機能を担う半面,炎症の局面では悪者の扱いを余儀なくされていた血小板と単球に焦点を当て,これらの組み合わせとIgGで生理的な炎症抑制機構が成立していることを証明した。本研究は自己免疫疾患などの原因となる慢性的な炎症において破綻している生理的な抗炎症経路の存在を示唆し,またこれまで基本的な機序の不明であったIVIgについて,今まで見過ごされて来たFcγRIIAを介する中心的な機序を示すことができ,治療の面でも関連分野に大きな貢献ができた。またこの新規な抗炎症経路の我々の発見を起点にして,それぞれ2つのサブセットから成るとされている単球や樹状細胞などが有する,隠されていた免疫制御機構の発見につながる可能性があり,関連分野を学術的に大いに刺激し,創薬にもつながる成果が得られた。
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