単核貪食細胞(単球・マクロファージ、樹状細胞)は病原微生物や組織debrisなどを貪食することで、生体防御や組織恒常性維持に必須の役割を担っている。単核貪食細胞は成体において造血幹細胞から様々な前駆細胞を介して産生される。予備実験結果から単球・樹状細胞の前駆細胞がすでに貪食能を獲得している可能性が示唆されたため、本研究ではこれについて詳細に検討を行ってきた。 平成26年度の検討では細胞死を誘導する薬剤をリポソームに封入しマウスに投与した場合、成熟貪食細胞のみならず前駆細胞も消失するという結果を得ていた。そこで今年度は蛍光標識したリポソームを調整しマウスに投与することで貪食を可視化したが、予想に反し前駆細胞による取り込みはほとんど認められなかった。この結果は、前駆細胞は貪食ではなく、別の要因によって消失した可能性が高いことを示している。そこで我々は、貪食細胞の前駆細胞は成熟貪食細胞の数を“感知”し、リポソーム投与によって失われた貪食細胞を補うために貪食細胞へと分化して“枯渇”するという仮説を考え解析した。その結果、貪食細胞分化に必須なサイトカインの発現がリポソーム投与により著増することがわかった。また、リポソーム投与後の前駆細胞ではそのサイトカイン受容体が早期に細胞表面から失われており、受容体のinternalizationが生じていると考えられた。以上の結果から、貪食細胞前駆細胞はサイトカインを介して成熟貪食細胞の数を感知・反応し、その数を調節することが示唆された。この貪食細胞産生制御機構は何らかの原因で貪食細胞を失った場合や、貪食細胞を大量に要する感染などの際に重要と考えられる。またこれは他の細胞系譜にも共通の機構である可能性がある。そもそも当該サイトカイン産生量が増える仕組みは何かなど、今後の課題も得られた。以上、当初の予想とは異なる展開によって、重要かつ発展性のある知見を得ることができた。
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