研究課題
免疫応答の過程で二次リンパ組織に形成される胚中心のB細胞においては、免疫グロブリン(Ig)遺伝子のV領域に体細胞突然変異(SHM)が蓄積され、その結果、Ig遺伝子産物である抗原受容体と抗体の抗原親和性が多様化する。SHMとクラススイッチ組換え(CSR)の誘導にはシチジン脱アミノ化酵素AIDが必須であるが、in vitroで活性化されたB細胞にはAIDが発現しCSRは起こるがSHMは起こらないので、胚中心B細胞には特有のSHM誘導能が存在すると考えられた。私たちが確立したiGB細胞培養系では、B細胞が著しく増殖して胚中心B細胞様のiGB細胞となり、CSRを起こすがSHMはほとんど起こらない。iGB細胞にBcl-6とBcl-xを強制発現させて長期に培養を続けても同様であった。一方、iGB細胞をマウスに移入すると、記憶B細胞様のiMB細胞に分化し、二次リンパ組織に維持される。このiMB細胞をiGB細胞と同様に培養し、さらにBcl-6/Bcl-x導入により長期培養した細胞(これをiMGB細胞と呼ぶ)では高率にSHMが生じることが分かった。よって、iGB細胞はin vivoにおいてSHM誘導能を獲得したと考えられた。このSHM誘導能の実態を明らかにすることが本研究の目的である。平成26年度は、培養中のiGB/iMGB細胞における変異導入活性を塩基配列解読なしに容易に検出する以下の方法を考案した。モデル抗原であるnitrophenyl(NP)に高い親和性で結合する抗原受容体B1-8hiのノックインマウスのB細胞をiGB細胞培養法にて培養する。低い価数でNPを結合させた色素(NPlo-APC)によりこのiGB細胞は染色されるが、V領域にランダムな変異が起こると、多くの場合親和性は低下しNPlo-APCへの染色性が低下する。実際に、上述のようにB1-8hiマウス由来のiMB細胞を長期培養するとNPlo-APC陰性の細胞群が出現し、それらの細胞ではNPlo-APC陽性細胞と比べてV領域の変異頻度が増加していた。今後はこの方法を用いてSHMの誘導因子の探索および検証を行う。
3: やや遅れている
当初の計画では、iGB細胞とiMGB細胞をそれぞれBcl-6/Bcl-x導入により長期培養した細胞を用いて、RNA-seqにより遺伝子発現を網羅的に解析し、両者で発現レベルの異なる遺伝子を候補として、その中からSHMの誘導因子を特定する予定であった。しかし、この方法では多数の候補遺伝子が浮上すると予想され、それらのSHM誘導能を判定するには、従来のV領域の塩基配列を直接解読する方法では多大な時間と費用がかかると予想された。よって、それに代わるSHM誘導能判定方法をまず作成することとした。
上述のとおり、iGB細胞とiMGB細胞の長期培養細胞の遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に解析し、両者で異なる発現レベルを示す遺伝子をRT-PCR法にて確定する。それらをSHM誘導因子の候補として、各単独で、あるいは複数の組み合わせによりiGB細胞に導入し、上述のNPlo-APC染色によるSHM誘導能判定方法によってスクリーニングする。複数の組み合わせによりSHMが誘導された場合、その中から1つずつ遺伝子を除いて同様のアッセイを繰り返すことにより、SHM誘導に必須の因子を同定する。SHM誘導を負に制御することが予想される因子については、そのsiRNAを発現させて同様にスクリーニングを行う。同定した遺伝子については、CRISPR/Cas9法を用いて変異マウスを作製し、免疫後の胚中心B細胞におけるSHMの頻度を解析する。
RNA-seqを行わなかったので、それに使用する予定であった予算を支出しなかった。
RNA-seqを行う。
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