個別化医療の現場への導入には、大容量のオミックスデータを読み取ることができる医師の育成が必須である。しかし医学教育においてこのことが十分認識されているとは言い難く、多くの大学では解決の模索も始まっていない状態にある。教育と啓蒙活動を効率よく推進する手段として、研究シミュレーションを通して受講者の印象に残る実習を開発することが本研究の主題である。 平成27年度までに次のような手順の実習プログラムをひな型として作成した。(1)NCBI GEOから研究の参考となるデータの検索(2)(1)のデータの標準化等を外注(3)(2)のデータを使ったパスウエイ解析による研究シミュレーション。平成28年度は福井大学医学系研究科博士課程の希望者にこの試作プログラムでの研究シミュレーション実習を実施。3名が受講し、参加者アンケートと実施状況を基に次の3点を改良した。(1)検索するデータを発現データに限定。(2)外注依頼内容を絞り込み、1件当たりの費用を削減。(3)受講者へのシミュレーション結果提示を、パスウエイ解析の「Disease & Function」結果に絞り込む。改良を加えた実習をさらに2名の希望者に実施。円滑な実習進行と良好な参加者アンケートの結果が得られている。 改良により専門家不在の大学でも実施可能な実習として完成し、平成29年度から福井大学医学系研究科博士課程では「実験基礎演習」に正規に組み込まれることが決定。次の段階として他大学での実施を考えているが、他大学への広報と実施を目指した活動は大学横断型技術研修会プロジェクトとして平成27年度から開始している。平成28年度は旭川医科大学遠隔医療センターの協力を得て、DNAアレイデータ解析技術をテーマとした遠隔型の大学横断型研修会を実施した。研究シミュレーション実習を遠隔で行う技術的、組織的基盤が整い、平成29年度の実施を目指している。
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