鳥取県日野郡江府町(人口3900人、高齢化率40%)を対象に、平成17年度から継続している「鳥取-江府スタデイ」の生活習慣病リスクに関する追跡データを検討した。この地域は脳卒中死亡率の高い地域であり、高血圧・脂質異常・肥満・糖尿病などの脳卒中リスク要因に加え、居住環境や従事している作業(農作業など)も、規定因子として繰りこんだ。生態学方法論としては、対象となる事象と関与する環境因子を可能な限り広く収集すること、その時点における水平的な相互関係を分析し事象を取り囲むネットワークを明らかにすることが必要であり、その視点から江府町を概括すると、以下のようになる。 ①自然環境:積雪のある中山間地、谷筋に集落が点在 ②社会環境:都市部までのアクセスは車で40分程度、高齢化が進行し、独居や2人世帯が増加、若い世代は都市部で仕事。高齢者の多くは小規模農業に従事する。 ③集落ごとの社会資源(Social Capital):旧来の農業協働を背景に地域内でのつながり助け合い感覚もつよい農業を基盤としたコミュニテイ ④医療資源:町内は国保診療所(江尾)と開業医1軒のみ、隣町(日野町)の日野病院までは車で15分。 ⑤行政特性:少子高齢化に伴う歳入低減と歳出の増加、道路、バスやタクシーなど交通支援、ケーブルTVなど情報通信、買い物支援など。 初期年度でスクリーニングされた耐糖能障害を有する患者群には、国保診療所での生活習慣介入を継続し介入1年後には体重低下と相関する耐糖能改善を認めた。しかし生活指導介入は、対象高齢者の食生活の制約を強制する面もあった。フレイル(虚弱)、歯(咀嚼機能)、認知症増加などを勘案すると、生活指導介入はフレイル予防も配慮した工夫が必要と思われる。 このように生態学的視点は地域の健康決定要因の分析ならびに介入ポイントの同定に一定の示唆を与えてくれるものと考えられた。
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