近年、長時間にわたる過重労働が医師の健康被害や突然死をもたらす例が全国的に散見されるようになり、医師による長時間過重労働の問題が社会的にクローズアップされるようになった。また臨床研修制度の必修化や新専門医制度の度重なる制度変更は医師のメンタルヘルスの低下をもたらしかねない。 本研究では医師の長時間労働対象者に対する産業医による面談を通して、医師の過重労働の実態とメンタルヘルスとの因果関係を調査することを目的とした。 具体的には長時間労働対象医師の所属診療科や職階と長時間労働の負担の程度、自覚的な心身の疲労度、抑うつ傾向における多変量解析を行った。 その結果、横断研究では135名の長時間労働対象医師においては、長時間労働の負担の程度や自覚的な心身の疲労度を過小申告する傾向は見られたものの、26名を対象とする縦断研究において長時間労働の軽減が自覚的な心身の疲労度と抑うつ傾向を改善することが明らかとなった。 今回の研究の結論として、医師は医療労働の主要な担い手として救命や医療過誤・医療訴訟などさまざまなリスクに曝されており、その中で自身のキャリア形成も求められている。そのような過酷な環境のなかで、医師が心身の疲労からバーンアウトしたり抑うつとなれば一種のスティグマを与えられるという懸念が長時間労働の負担や心身の疲労度を過小申告する傾向として表れたものと解釈される。医師のバーンアウトは休職・離職や過労自殺・医療過誤につながる可能性も高いため、病院専属の産業医の役割は重要であると考えられる。
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