最終年度となる28年度は、以下の3点について研究を推進した。①ハーバード大学によるcultural competenceに関する医学生への調査、②物語医療(narrative medicine)について、③共感的コミュニケーションを妨げる認知的・心理的側面について。
①現在、高雄医科大学(台湾)のLu教授とハーバード大学医学部のGreen教授らのグループで進められているcultural competenceに関する研究で使用されている質問票の日本語バージョンを作成した。作成に当たっては、米国との文化的差異に起因する質問項目を日本人医療者に適応するように修正した。質問票はパイロットスタディとして宮崎大学医学部1年生に回答してもらい集計した。 ②cultural competenceの中でも病気を患う患者の声を聴き、病の物語を認識し、読み取り、解釈し、それに心動かされる能力が重要であるといわれる。それは、病気の治療において苦しむ人を理解し尊重すると同時にそれをケアする医療者自身の人間性もはぐくむからである。この点について、文献調査の実施と宮崎大学医学部1年生の英語授業での教育実践と学生からのフィードバックを通した物語医療に関する質的な研究を実施した。 ③医療者自身の共感的なコミュニケーションを阻む重大な要因の一つとして、本人の持つ認知的バイアスや心理的抑圧などがあると考えられる。この点について、心理関係のワークショップに出席し、顕在的な側面と潜在的な側面からのアプローチ手法について調査を実施した。特に抑圧と投影、境界線越えなどのキーワードにより、医療者自身が患者に何をする(doing)かではなく、心のありよう(being)がケアを提供する際のマインドセットとして非常に重要である点が明らかとなった。
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