研究課題/領域番号 |
26670271
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
平野 勝也 香川大学, 医学部, 教授 (80291516)
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研究分担者 |
平野 真弓 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80336031)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 平滑筋細胞 / トロンビン受容体 / 受容体脱感作機構 / 不可逆的活性 / シグナル伝達 / 蛋白質リン酸化反応 / 酸化ストレス / 脳血管攣縮 |
研究実績の概要 |
本年度は、胎児ラット大動脈由来平滑筋細胞A7r5細胞を用いて、トロンビン受容体の脱感作障害の分子機構を明らかにすることを中心に研究を実施した。その結果以下の研究成果が得られた。すなわち、A7r5細胞においては、トロンビン及びトロンビン受容体アゴニストペプチドはいずれも、持続的細胞内カルシウムシグナルの発生を引き起こし、トロンビン刺激の場合は、刺激を止めた後も、カルシウムシグナルは不可逆的に持続することを明らかにした。一方、アゴニストペプチド刺激の場合は、刺激を除去するとカルシウムシグナルは終息したがが、2回目の刺激に対しても同等のカルシウムシグナルの発生を認めた。この観察結果はくも膜下出血モデルの脳動脈において認めていた現象と同様であり、A7r5細胞においてはトロンビン受容体の脱感作機構が障害されていることが示唆された。さらに、抗酸化剤存在下に7日間培養した細胞、あるいは、細胞外シグナル依存性蛋白質リン酸化酵素ERKの阻害剤で15分間前処理した細胞においては、トロンビンおよびトロンビン受容体アゴニストペプチドにより引き起こされるカルシウムシグナルの発生は、刺激が続いているにも関わらず一過性に終息し、2回目に刺激に対する反応性はほとんど認めらなかった。本年度の研究から、A7r5細胞におけるトロンビン受容体の脱感作障害の分子機構として、酸化ストレスとERKによる蛋白質リン酸化反応が重要な役割を果たすことが明らかとなった。これらの研究成果は、論文および学会にて発表した。 トロンビン受容体の脱感作障害の分子機構を明らかにするためのプロテオーム解析を実施するに当り、A7r5細胞抽出を用いてトロンビン受容体の免疫ブロットの特異性を確認した。複数の抗トロンビン受容体抗体を用い、その中から特異性が高いと判断される免疫ブロットの結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年4月より研究代表が新しい研究機関を異動した。平成26年度は、研究代表者の旧所属機関に残る研究分担者と研究の進捗状況について綿密に連絡を取りながら、培養細胞を用いた研究を進めた。その結果、上述の通り、培養平滑筋細胞を用いて、くも膜下出血モデルにおけるトロンビン受容体の脱感作障害を再現する実験系を確立することができた。さらに、酸化ストレスとERKによる蛋白質リン酸化反応が関わる脱感作障害の分子機構を明らかにすることができた。異動に伴いプロテオーム解析、動物実験には遅延が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞実験:初年度の成果を元に、プロテオーム解析を行い、酸化ストレスおよびERKにより制御される分子を同定する。特に、ERKの基質となる蛋白質を明らかにすることにより、脱感作障害の分子機構の核心部分を明らかにする。このために、リン酸化蛋白質の網羅的プロテオーム解析を行い、この点を明らかにする。また、トロンビン受容体の脱感作障害における受容体自体のリン酸化の関与についてもプロテオーム解析から明らかにする。 モデル動物実験:培養細胞実験から明らかになるトロンビン受容体の脱感作障害に関与する候補分子について、摘出血管を用いて、病態における発現や活性変化を明らかにする。薬理学的阻害剤やRNA干渉法による介入を行い、血管造影、摘出血管の収縮反応、トロンビン受容体の発現を指標に、候補分子の機能的役割を明らかにする。さらに、当該分子の遺伝子導入あるいは発現抑制を行った動物、あるいは、ノックアウト動物を用いて、血管造影あるいは摘出血管の収縮反応の評価により、攣縮発症における役割を検証する。 トロンビン受容体インバースアゴニストの探索研究:A7r5細胞においてトロンビンが引き起こす不可逆的カルシウムシグナル発生を指標として化合物の探索を行う。得られる化合物について、スクリーニングに用いた培養細胞を用いてその特異性を検証する。さらに、モデル動物から摘出した攣縮血管のトロンビンによる不可逆的収縮反応に対する阻害作用の有効性とその特異性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は培養細胞を用いた研究を中心に実施した。研究代表者の研究機関異動に伴い、動物実験およびプロテオーム解析の研究に遅延が生じたたために次年度使用額が生じた。本年度においてプロテオーム解析に必要な標本作成を終了した。
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次年度使用額の使用計画 |
培養細胞実験に加え、動物実験およびプロテオーム解析研究を進める。
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