研究実績の概要 |
インテグリン結合性サイトカインであり、マトリセルラー蛋白の一つであるオステオポンチン(OPN)は、免疫調節、がん化、組織傷害、骨化など多彩な局面で働く。OPNの臨床的な特徴の一つとして、がんや炎症性疾患での上昇が著しいことが挙げられ、マーカーとしての報告が多数ある。 一方で、OPNの作用発現の分子機構の詳細は十分明らかではないが、振舞いの一つとして、生体内でマトリックス架橋酵素により重合し好中球の走化因子となることが確認されている。今回、この重合体の生体反応に対応する挙動を知るため、また新たな疾患マーカーとしての可能性を探るため、重合OPNに対するELISAの構築を試みた。 まず重合不能OPN遺伝子(JBC 286:11170-8, 2011)をマウスに導入し、OPNノックアウトマウスと交配し、重合不能なOPNのみ発現するマウスを得た。重合不能OPNは3か所に変異が導入されており、完全に野生型OPNと同じ構造ではないが、これらの変異部位は天然変性部位にあるため立体構造は異ならず、両者はほぼ同じ抗原性を有すると思われた。このマウスに対して、試験管内でトランスグルタミナーゼと反応させ作製した重合OPN ( JBC 284:14769-76, 2009) を腹腔内に注射して免疫した。 型の通りハイブリドーマを作製しスクリーニングを行ったところ、大多数が野生型OPNと反応し、一部が重合OPNと野生型OPNの両者に反応した。重合OPN特異的クローンが得られなかった理由としてマウスの重合不能OPNの発現が弱く、十分な免疫学的寛容を得られていないこと、また得られたクローンの多くがOPNの1次構造上の3箇所のアミノ酸置換部位を認識していることが考えられた。現在CRISPR-Cas9法により野生型OPNには免疫的に寛容であるマウスの作製を開始している。
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