現在、アルブミン尿・血尿などの検尿検査でなんら異常をしめさずに、腎機能自体が潜在的に低下していく患者が大変増加している。加齢および高血圧によって発症する腎硬化症の増加が原因である。腎硬化症の病態は、細動脈の壁肥厚による循環障害であるため、糸球体障害を反映するタンパク尿・血尿には異常を認めにくい。そこで、細動脈が硬化に至る過程で、この部位に特異的に発現する分子群を同定した。ヒト尿サンプルに対して、前年度に選定した、腎の細動脈~小動脈での発現に変化のみられる分子を探索することで、数個の分子群をバイオマーカー候補として得た。腎生検にて得られた病理組織学的な病期、重症度、活動性との相関も確認できた。尿タンパクの顕在化に対して、先行して増加するマーカーと、血清 Cr の上昇・GFR 低下時に先行して発現量の変化するマーカーが得られた。また、腎硬化症患者の長期的な予後の改善をめざした患者個々に最適な治療法選択の指針を提供するツールになるかどうかを検討するため、尿中バイオマーカーの子帆分子群を用いて既存治療の効果判定を行った。臨床情報をもとに、ACE 阻害薬、ARB、Ca 拮抗薬などの降圧薬やスタチンなどの脂質異常症治療薬、抗凝固薬、減塩食などの現行の治療法による、各分子マーカー候補の変化を検討した。短期的には、尿タンパクの顕在化や変動に並行して発現量が変化するマーカーは得られなかったが、血清 Cr の上昇・GFR 低下時に先行して発現量が増加していたマーカーは、Ca拮抗薬およびACE阻害薬の一部、抗凝固役の一部により、発現量が抑制されていた。これらは、腎硬化症の発症の予防・抑制効果を判定する尿中バイオマーカーとしての可能性が強く示唆された。
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