研究課題/領域番号 |
26670286
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
齋藤 剛 順天堂大学, 医学部, 准教授 (80439736)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原発不明癌 / 骨転移 / 肺腺癌 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
骨転移は、乳癌・前立腺癌・腎癌・肺癌を含めた多くの癌でよくみられる現象である。しばしば遭遇する原発不明癌の骨転移における原発巣の診断は、臨床的に非常に重要な意味を持つが困難であることも多く、また様々な精査を行った末に原発巣がわからず、最終的に原発不明癌として治療されることも少なくない。2002年から2014年までの間に経験した2641例の骨転移症例のうち、癌の既往の有無などを含めた臨床情報から原発巣が不明であった原発不明癌骨転移症例286例に対し、後向きコホート研究を行い、原発巣の診断に有力な検査の同定、最終的に原発不明癌骨転移と診断される割合、また原発不明癌骨転移症例における各原発腫瘍別の生存率を算出した。その結果、88.8%の症例に原発巣が同定されtが、11.2%の症例は結果として原発巣が同定されなかった。原発巣として最も多かったものは、肺腺癌であり約1/4を占めていた。原発不明癌患者の平均生存期間は20ヶ月であり、単発骨転移症例および多発骨転移症例の平均生存期間は、各々39ヶ月、16ヶ月であった。原発不明癌骨転移症例において、前立腺原発と診断された患者の平均生存期間は120ヶ月である一方、肺腺癌と診断された患者の平均生存期間は9ヶ月であった。最終的に原発不明癌と診断された患者の平均生存期間は11ヶ月であった。原発不明癌骨転移症例においては、最終的に原発不明癌と診断される患者以上に予後不良を呈する肺腺癌患者が最も多かったことからは、原発不明癌骨転移症例の治療の際には、診断の確定にこだわらず、早期に治療を開始することが重要であると思われた(Takagi et al. PLOS One in press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、原発不明癌骨転移症例における臨床病理学的な解析を行った。その結果から、肺腺癌が最も頻度が高く、また最も予後が悪い癌腫であることが判明し(Takagi et al. PLOS One, in press)、まずは肺腺癌の検出マーカーの検索を重点的に行っていくことにした。また、肺腺癌の転移巣では、我々が昨年度に同定した肺腺癌の転移予測マーカーであるGalectin-4の発現が亢進しており、予後予測マーカーであると同時に、骨転移の際の原発巣推定マーカーとなりうることを示すことができた。 以上より、研究計画はほぼ順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
さらに、原発不明癌骨転移症例において最も頻度の高かった肺腺癌を対象に行った研究では、我々は腺房型を主成分とする肺腺癌においてGalectin-4の発現がリンパ節転移の予測因子となり、さらに再発・生命予後にも有意に影響を与えることを報告している (Hayashi, Saito et al. PLOS One, 2013)。一方、TTF-1陰性の肺腺癌は比較的予後不良であることが示されている。これらの結果から、腺房型肺腺癌転移巣の症例にGalectin-4とTTF-1の免疫染色を施行し、転写因子であるTTF-1とGalectin-4の発現の関連を調べた。病理組織学的に肺腺癌の転移巣と診断された36病変 (肺切除時に廓清されたリンパ節を除く) とその原発巣を対象とし、Galectin-4とTTF-1の免疫染色を施行したところ、腺房型肺腺癌ではGalectin-4とTTF-1の発現が有意に逆相関していた。肺腺癌の転移巣では、TTF-1の陽性率が約58%と低かった。Galectin-4陽性例5例は全てTTF-1陰性であり、Galectin-4とTTF-1の発現は有意に逆相関していた。原発不明癌の原発巣の診断の際に、その中で最も頻度の多い肺腺癌の診断をする際には、転移を来すような肺腺癌はTTF-1 (-) という発現型が比較的多いことから、TTF-1陰性でも肺腺癌の転移巣である可能性を容易に除外しないことが重要であるとともに、Galectin-4の発現が原発不明癌骨転移症例における診断補助として有用である可能性を示している。これらの結果から、原発不明癌骨転移の診断におけるGalectin-4の有用性を更に検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が少額であり、適当な試薬等の購入が出来なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度分と併せて、抗体購入等に使用する。
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