脊髄後角細胞は皮膚感覚を脳に中継する。この役割を直接担う投射細胞の数は非常に少なく、多くの脊髄後角細胞は介在ニューロンである。しかし介在ニューロンも1次求心性線維の主な標的であり、脊髄後角で局所回路を構築して投射細胞への入力を修飾し、脳へ伝わる情報を調節していると考えられている。本研究の目的は、脊髄後角局所回路の各介在ニューロンの役割を明らかにすることである。そのため、(1)脊髄後角に存在する様々な介在ニューロンに対して光遺伝学的手法を用いてマニピュレートし、局所回路出力に対する影響を調べ、その役割を明らかにする。また、(2)特定のインターニューロンをパッチクランプ法により電気生理学的に記録し、同時に記録した細胞を染色して、記録した細胞が局所神経回路においてどのような役割をしているかを解剖学的特徴から推測する。 今年度より鹿児島大学に赴任した。この際佐賀大学からの遺伝子改変マウスの移動を行うことに困難が生じた。鹿児島大学にこれらのマウスを導入するためには鹿児島大学での遺伝子組み換え実験申請、動物実験申請が必要であり、それらの審査を経て動物の移動が可能となるが、その間佐賀大学でマウスを維持することができなかった。したがって、鹿児島大学で審査を受けた後、マウスを凍結胚から復元する工程を繰り返さざるを得ない状況となった。 光遺伝学実験に用いるためのマウスを復元させ、繁殖させるにはどうしても時間が必要である。そのためその間パッチクランプ法で個々のニューロンを記録・可視化して局所回路を解剖学的に調べる実験を行った。その結果本研究でターゲットとしているパルブアルブミンニューロンが、興奮性インターニューロンで、投射細胞への局所神経回路の出力を担うと考えられているVertical cellに対して抑制をかけていることが明らかとなった。
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