研究課題/領域番号 |
26670308
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西浦 博 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70432987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 予防接種 / 感染症 / 数理モデル / 疫学 / 保健政策 |
研究実績の概要 |
これまでの日本における予防接種制度は、必ずしも客観的かつ科学的な根拠に基づいて策定されたものでなかった。本研究は予防接種の政策判断において最適な選択肢を科学的に同定する数理モデリングプロジェクトである。具体的には、①定期予防接種の対象疾患の選択・除外方法、②風しん流行途中の緊急接種における必要接種数と対象者、③副反応が報告されたワクチンの定期接種の継続・中止の判断、の3点に課題を絞って基礎的な解析手法を確立する。風しんや子宮頸がんワクチンなど社会的関心の高い課題を対象に、オペレーショナルなモデル構築を通じて、現実の接種戦略で最も妥当な政策対応が何なのかを明らかにする。得られた結果に基づく政策提言を通じて、本課題は数理的諸手法を駆使して客観的に検討可能であることを強く主張する。 初年度のタスクは①ワクチン予防可能疾患のDALYs基礎データの収集、②予防接種率の計算方法の改善、③社会的接触調査と年齢群別感受性の推定、である。①では、個々の感染症の疾病負荷は死亡者数によって比較可能であるが、必ずしも死亡するわけではない感染症も多い。そのため、疾病負荷を障害調整生存年数として表現することで比較可能性を担保することとした。②では、予防接種率の計算方法の改定も大きな政策検討課題である。現存のデータ活用を考える方法を考案した。③では、社会的接触に基づく接触行列は風疹を含む直接伝播する感染症の年齢郡内・間の伝播頻度に比例する。対応するデータが日本になかったため、身体的接触と短文交換による社会的接触を定義して調査を実施した。1日の接触頻度が負の二項分布に従うとしたとき、20歳未満の平均値が英国と比較して5%の誤差内に収まるよう検出力80%で同変動係数の下で補足するには同年齢群945人の調査、すなわち、全人口4974人の調査を必要とすると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目標としているDALYsデータの収集、予防接種率の計算方法の改善、社会的な接触の調査のいずれに関しても順調に完了した。接種率の計算方法と接触行列の推定値に関しては27年度中に論文化を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、前年度の成果の論文化を徹底しつつ、①定期接種の費用対効果分析、②風疹ワクチンの緊急接種モデリング、③副反応による定期接種の中止判断基準の考案、について取り組む。 ①新たな定期接種及び既存の定期接種の費用対効果分析:均一な接触を想定した決定論的モデルを用いて個々の新たな定期接種の導入による費用対効果を分析する。分析においては非定常状態の実効再生産数と新規感染者数の計算を通じて接種費用と疾病負荷の計算を行い、それに引き続いてICERの計算を実施する。新たな接種だけでなく、既存の定期接種の疾患についても費用対効果が十分であるのか非定常状態の条件下で検討する。 ②風疹ワクチンの緊急接種モデリング:風疹ワクチン接種が2013年の任意の時刻に接種可能としたときに、(i)年齢別・性別の優先的接種対象(小児か成人かいずれを優先するか)、(ii)妊娠可能年齢の女性の接種を継続するか、そして(iii)接種前に対象者の免疫状態を確認する血清検査を実施するか、について検討し、それぞれ考え得る政策オプションに関して費用対効果を検討し、最適な接種戦略の同定を行なう。 ③HPVワクチンの定期接種継続を判断するモデル: 総死亡者数と総コストを目的関数として最小化問題を解く。特に、いずれの関数もワクチン接種によって集団免疫が形成されることと、性的活動の開始までに遅れを要することを加味する。
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