本研究は、地域基幹病院における診療情報の電子化を基盤として、疫学研究への展開と住民・患者への情報提供・支援という新たな価値付加を目指して、生涯電子カルテ(Electronic Health Record:EHR)システムの開発と実装による課題抽出・解決策の提示に取り組んだ。 コホート研究を継続中の滋賀県長浜市にて、市立長浜病院と長浜赤十字病院が参加している「びわ湖メディカルネット」の基盤であるID-Linkへのmapperの付加により、両病院の診療情報の様式に応じたデータ抽出システム構築について、関係者間で課題の共有と解決に向けた協議を進めた。 平成27年9月の「個人情報の保護に関する法律」改正の議論に際して、新たに診療情報が「要配慮個人情報」と位置付けられたため、診療情報の電子的抽出と匿名化による研究目的への利用について、関係者の間でより慎重な合意形成が必要とされた。その状況を受けて当初計画を見直し、慎重に調整とルール作りを進めた結果、平成28年4月時点で協力病院から内諾が得られ、EHRセンターと両病院をIPSec-VPNで接続した。各病院にVPNルータと電子カルテから抽出したXMLデータをEHRセンターへのアップロード用のセットトップボックス(アップローダ)を設置し、電子カルテからXMLデータのアップローダへの転送、アップローダに設置した任意のファイルの転送を確認した。実運用に向けて,日次の電子カルテ更新データがEHRセンターに夜間帯に転送できる体制を整えた。上記の取り組みを通して本挑戦萌芽課題によって、診療記録を電子的に抽出し、疫学研究に連携するための基盤を構築することができた。
|