研究課題/領域番号 |
26670332
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 崇之 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (70332450)
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研究分担者 |
吉田 志緒美 独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター), 感染症研究部, 流動研究員 (40260806)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子疫学 / 感染症 / 古病理学 / ゲノム / 歴史学 |
研究実績の概要 |
わが国での結核患者は高年齢者が多数を占め、分子疫学的調査でも老年性結核患者に特徴的な遺伝型別を呈する菌株の存在が見出されている。結核菌は感染後に長期的な潜伏期間を経て発病することから、時間軸という概念(現代に分離される菌株が過去の時代をどの程度経て、どのように蔓延し、拡散してきたのか)を用いて、過去における結核蔓延株を遺伝情報から同定することがその原因究明に重要な情報を提供しうると考えられる。 本研究課題の目的は、残存する過去の結核患者由来組織標本を対象にして結核菌DNA抽出を試み、過去に猛威を振るった結核菌株を現代に再構築させ、わが国が抱える高齢者結核や他の先進国に比較して罹患率が高いという現状に対する直接的要因を探求することである。今年度は、研究協力者の所属する国立病院機構の臨床研究倫理委員会に共同研究提携を申請し、正式に本研究におけるカウンターパートナーとして承認された。さらに、同施設において1956年から77年の期間に罹患された肺結核患者由来の263症例の病歴及び病理診断情報を抜出し、結核患者の属性を集計した。併行して該当の263症例の中から保管されていた病理標本116検体を再包埋し、DNAを抽出・精製することに成功した。 また、従来の結核菌群検出に利用されていたIS6110を標的とした二段階PCRを再検討し、長期保管によって組織内DNAが損傷を受けた場合でも増幅しやすいように改変した。本成果について、現在投稿準備中である。 現在、本課題での経験を活かし、病理標本由来の微量DNAからの抗酸菌検出を並行的に試みている。稀な症例である歯肉結核症における病変組織からの結核菌遺伝子の検出に成功し、同症例の確定診断となった点について学術誌に報告済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は新規調査先における標本採集およびDNA精製を実施し、先行研究によって集積・分析していたデータ(異なる地域、同年代の組織標本:101検体)と合わせることにより、当時の結核状況を知る上で信頼度の高い標本群を構築することができた。これらは当時の病理カルテが現存しており、当時結核によって切除術を施された標本であったことが判明している。現在、同標本から抽出したDNAサンプルについて精査を進めている段階であり、計画としておおむね順調に進展していると言える。 日本では、「北京型結核菌」が国内に定着しており、中でも系統的に古い株が優先している点で周辺国と大きく乖離している。特に、ほとんど日本国内でしか分離されない系統が比率的にも多く分離されており、この特異性は全国的に一様であることがわかっている(関連論文を2報投稿中)。こうした菌株群が定着した経緯、年代を推定できれば、現代における再発例においてその伝搬経路を推定する上で新しい知見を得られると考え、それらの遺伝マーカーを構築した。今年度は、これらを活用することにより、上述した標本群の詳細な分析を実施する予定である。 本来の研究計画に加えて、こうした組織標本処理、結核菌検出技術を水平応用することにより、現代において菌検出が難しい臨床例に寄与しうる事例についても検討、分析を始めている。本展開では既に論文に纏まった成果も含め、現代医療において一定の需要が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に精製した116検体の病理標本の結核菌検出、遺伝マーカーによる薬剤感受性推定および系統解析を実施する。本結果を既存のデータと比較、統合し、半世紀前の結核流行が現代とどのように異なっていたかについて検討する。また、本結果を現代株の比較ゲノムデータの樹形/集団解析と統合し、当時の状況が現代に与えた影響について推察する。こうした分子疫学的研究に加え、当時の結核対策に関する史料を収集し、結核がどのように対策され、収束の道をたどってきたのかについて纏める。 当初予定していた古標本検体からの核酸抽出物の次世代シーケンサー解析については、予算配分額の都合上実施を見送り、今年度以降の研究課題として持ち越すことを検討している。そのため、研究計画に若干の変更が生じている。 研究協力者や共同研究者との議論から、抗酸菌感染症由来の組織標本からの菌種同定、薬剤感受性分析には、臨床の現場で一定の需要があることがわかってきた。古標本解析の実験環境を水平的に活用することは容易であり、本課題の研究展開として包含していくことで新たな方向性が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた古標本検体からの核酸抽出物の次世代シーケンサー解析について、決定額の都合上実施を見送ったことから、研究計画に若干の変更が生じている。また、国際学会への参加を見送ったため、旅費の執行額が抑えられている。
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次年度使用額の使用計画 |
収拾された結核古標本の遺伝子解析を進めることに加えて、小児期のBCG接種における炎症反応や、培養陰性の抗酸菌症において重要となる組織標本からの菌種同定へと技術流用することを計画している。そのため、組織標本からの診断技術確立を目的とした実験試薬購入を検討している。
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