近年、日本人を対象とした複数の疫学研究の結果から、「糖尿病患者のがん罹患リスク増大」が報告されている。しかしながら、糖尿病によるがん罹患リスクの増大の理由については未だ十分に明らかとされていない。本研究課題では、糖尿病の進行に伴い、ヒト血中のTRAIL量が低下するという既報に着目した。糖尿病罹患により、免疫機能が低下することは知られているが、糖尿病による免疫力低下の結果、抗腫瘍免疫を担うサイトカインであるTRAILの減少が生じ、それにより発がんに至る可能性を考えた。 平成26年度に、2型糖尿病モデルラットの各種臓器由来のサンプルと正常個体サンプル間でTRAIL mRNAの発現量比較解析を行い、眼と膵臓では糖尿病個体サンプルのTRAIL発現量が低いという結果が得られた。平成27年度は、さらに2型糖尿病モデルマウスのサンプルを用い、同様にTRAIL mRNAの発現量比較解析を行った。その結果、糖尿病マウスの大腸と膵臓由来のcDNAサンプルで、正常に比してTRAIL発現量が低いという結果が示された。すなわち、前述の糖尿病患者における報告と同様に、マウス・ラットのいずれの動物モデルにおいても、糖尿病発症が体内TRAIL発現の低下をもたらしている可能性が考えられる。さらに、岐阜大学大学院医学系研究科消化器病態学より提供された糖尿病モデルマウスのホルマリン固定パラフィン包埋組織サンプルを用い、免疫組織学的検証を行った。解析の結果、糖尿病個体と、正常個体サンプルとの間に顕著なTRAIL発現量の差は認められなかった。現在、ホルマリン固定パラフィン包埋組織よりRNAを抽出し、リアルタイムRT-PCRによる発現量比較試験を行っている。 また、平成27年度は、糖尿病治療薬であるメトホルミンがヒト膵臓がん細胞株に対し、p53非依存的にDR5の発現を誘導し、TRAIL感受性を増強することを見出した論文が、PLOS ONEに掲載された。
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