研究課題/領域番号 |
26670338
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
城戸 滋里 北里大学, 看護学部, 教授 (20224991)
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研究分担者 |
熊谷 奈穂 北里大学, 看護学部, 助手 (40648309)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 葬儀業者 / 感染予防 / 死体 / 死後変化 / 死後処置 / 死体感染 / 産業衛生 / 作業環境 |
研究実績の概要 |
近年、さまざまな感染症による危険性が指摘されており、医療者のみならず、救急隊、消防士、警察官、葬儀関係者など多くの労働者が危険にさらされている。わが国では、医療施設内で死亡した場合は従来から実施されている死後の処置を医療従事者が実施し、その後遺族や葬儀業者に渡されることが一般的だが、遺族の意向により葬儀業者が再度処置を施すことや、施設によっては医療者に代わって葬儀業者が死後の処置を実施する場合も少なくない。しかしながら、死亡診断書には感染症記載の義務はなく、医療者からの申し送りも限りなく少ない現状がある。このように頻繁に死体を取り扱う葬儀業者は、常に何らかの感染症に罹患する危険と隣り合わせで勤務しており、労働安全衛生法による職場での労働者の安全と健康を確保するためには、業務上の感染症罹患の可能性を把握しこれを予防する必要性がある。 26年度は、葬儀業者への聞き取り調査により以下の内容を把握した。勤務体制には日勤、宿直、夜勤、交代制があり不規則である。死体取り扱いの依頼先には医療施設以外にも、在宅、企業、警察等がある。死体取り扱い時には感染症が不明な場合、汚染や体液漏出がある場合、遺族の心情に配慮し手袋などが使用できない場合、体調不良時等には感染の不安が生じる。死後処置時の方法が統一されていない場合もあり、使用物品も様々である。従業員にワクチン接種や感染症検査を実施している会社もあるが、個人で実施せざるを得ない勤務状況の会社も多い。感染予防に関する研修会や講習会にも必ずしも参加できる業者ばかりではない。業務上従業員の入れ代わりが多いうえ、一般人は清潔不潔の観点がないため勤務しながらの教育では感染のリスクを下げられない。 以上の内容を踏まえて、葬儀業者を対象にした感染予防の実態調査用の質問紙を作成すべく検討を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の計画では、葬儀業者の業務内容を把握するために、死体を取り扱う葬儀業者、及びご遺族の許可を得て、死体搬送、死後の処置、寝衣交換、湯灌、死化粧、納棺等の一連の葬儀業務に同行し、業務内容を数日に渡り観察、調査し、その後同従業員数名に聞き取り調査を実施し、日常的な葬儀業務としての仕事の流れ、非日常的に発現した何らかの事象、遺体との接触時期、接触時間、その方法等の業務内容を把握するまでを実施する予定であった。 しかしながら、依頼した数社から、死体を取り扱う業務に関してご遺族の許可を取ることは倫理的に困難であり、当該従業員もまた業務を実施しにくい旨の返答があった。そのため、死体を取り扱う従業員数名を紹介していただき聞き取り調査を行う計画に変更し以下について聴取した。①遺体取り扱い時の遺体からの出血・体液等の漏出経験の有無及び漏出部位、並びに場面・対処法②健康診断実施時の肝炎等の抗体価検査の有無③肝炎等のワクチン接種の有無とその種類④業務中に罹患したと思われる疾患や症状⑤遺体引き取り場所(医療機関・施設等)からの疾患名・感染症・取り扱いに関する指導の有無及びその割合⑥遺体引き取り場所(医療機関・施設等)から得たい情報や指導内容⑦遺体の保存と保管方法⑧搬送車や処置現場の消毒方法⑨遺体接触時の手袋、マスク、エプロンの着用、手洗い時期及び方法⑩死後の処置やエンバーミング実施の有無、及び実施時の注意点⑪遺体からの感染を回避する方法⑫感染に関する知識・マニュアルの有無⑬その他。 以上の結果から、葬儀業に従事する労働者の抱える様々な問題点を抽出し整理した内容に、感染関連の文献、及び産業衛生関連の文献検討結果をあわせ、27年度前半に実施予定であった葬儀業に従事する労働者に及ぼされる遺体からの感染の危険性に関する質問項目策定までが実施できたため。
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今後の研究の推進方策 |
27年度の計画 26年度に策定した質問項目から質問紙を作成し、全国の主要な葬儀社のうち約30%が集中していること、及び一般的な葬祭儀礼に地域的な偏りがないことを考慮したうえで、東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏で、葬祭専門事業者団体に加盟する葬儀業社約400社を選定し研究協力願いを送付する。研究協力願いには倫理的配慮を記載した別紙、及び返送用はがきを同封する。同封した返送用はがきにより、葬儀業者が研究協力の有無、必要な質問紙の部数、並びに研究協力の有無に関わらず研究結果送付の希望を把握する。この意向調査の結果から、研究協力を申し出た葬儀業者に対して、希望する質問紙部数、及び記載する従業員への倫理的配慮をそれぞれ同数の返信用封筒に同封し、従業員個々人が期限までに返送する形で質問紙調査を実施する。返送された質問紙の内容を精査し、問題点を抽出する。得られた知見は、学会発表等を行い社会に還元する。 28年度の計画 27年度に実施した調査結果、及びこれまでの感染関連の文献、並びに産業衛生関連の文献検討結果をあわせ、葬儀業者の業務形態、及び流れに即した感染予防方法を策定する。この方法を実践に即したものとするためには、27年度に研究協力を申し出た葬儀業社数社に協力を仰ぎ、実際に死体を取り扱う業務で実施していただくことが必要となる。そのため、方法実施のために必要な種々の個人防護具等の物品を準備し、これを従業員個々に使用していただき、更に方法実施後の聞き取り調査を行うこととする。以上の結果を整理し、葬儀業者に有用な感染予防マニュアルを作成する。 なお、本研究で得られた知見は、学会発表、及び論文作成等を行い社会に還元する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究内容の一部変更から、葬儀業者への業務調査に発生する予定であったアルバイト代、及び謝金の約6万円が不要となりました。 また、前年度に購入予定であった通信機器のルーター約9万円が、未だ複数業者との見積もり書が揃わず遅滞していることにより支出できませんでした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度未使用額の約15万円に平成27年度所要額の約50万円を合算した約65万円を、次のように使用する計画を立案しております。 意向調査、及び質問紙調査のための封書代、印刷代として30万円、送料として12万円、会議費として3万円、交通費として5万円、データ入力等のアルバイト料として3万円、ルーター費として9万円、物品費として3万円になります。
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