近年、さまざまな職種で職業感染が危惧されているが、なかでも遺体を取り扱う葬儀業者は医療施設、一般家庭、事故現場等からの遺体搬送に携わり、更に取り扱いの多くを占める医療施設では、死後の処置を葬儀業者に委託する傾向が増えていることから、葬儀業者の遺体からの職業感染リスクが上昇していると考えた。このことから葬儀業者は常に何らかの感染症に罹患する危険があり、労働安全衛生法による労働者の安全と健康確保の観点から、業務上の感染症罹患の危険性を把握しこれを予防する必要があると考える。 そこで、平成26~27年度は、東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏で葬祭専門事業者団体に加盟する葬儀業者を対象に、感染予防の実態に関する質問紙調査を実施した。その結果、葬儀業者の業務には遺体の搬送以外にも寝衣交換・清拭・汚物の処理といった死後の処置も多く、その際の遺体の血液・体液の付着や漏出、自分自身への感染の恐怖、及び不規則勤務からくる健康状態の不安等を抱えていることが分った。また、遺族感情への配慮等のため感染防護具が使用しにくく、手袋・マスク・納体袋の各2割程度以外はほとんど使用していない状況であった。さらに、自身に感染の知識がないことにも不安を感じていたが、この原因の多くが遺体引渡し時の医療者からの遺体の感染状態に関する情報が得られないことであった。以上のように、遺体取り扱い時に葬儀業者が抱えている感染予防に関連する様々な現状や問題点が明らかとなり、葬儀業者が職業感染リスクの高い職種であることが確認された。この結果を受けて、平成27~28年には、研究協力を依頼した葬祭専門事業者団体及び新たに霊柩自動車関連団体にも働きかけて、宮崎県、滋賀県、大阪府において感染予防に関する研修会を開催し、更に各種感染防護具を持参して正しい装着方法の演習を実施した。以上の成果は3件の医学系学会にて発表し現状及び問題点を報告した。
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