研究実績の概要 |
本研究は法医実務例をもとに、死後変化に対して比較的安定であることが知られているmicroRNAを用いて、特定のストレスに対し客観的評価指標を探ることを試みたものである。ラットに対してエタノール・運動・抑制の3種類のストレス負荷処置を行い、加えてストレス負荷時間を20分と90分それぞれで行うことで、時間的要素を加味させた。microRNA測定の方法として、本年度は、心筋試料に対し、次世代シークエンシングを使用した網羅的解析を行った。 この結果、コントロール群と比較して、90分運動群と90分運動後抑制群でmiR-16-5p, -22-3p, -26-5p, -29a-3p, -29b-3p, 126a-3p, -143-3p の7種のmicroRNAに有意な発現量の差がみられた。前年度の血清の結果と異なり、miR-126a-3pは90分運動後抑制群で有意な上昇、miR-29a-3pで有意な低下があり、運動後抑制ストレスに対する特異的変化を反映している可能性が示されている。 血清と心臓とのmicroRNA発現量の変化の相関についてはサンプルサイズが小さく、今後PCR等によって個別の確認が必要と思われた。 本研究結果は運動後の拘束ストレスとある種のmicroRNA発現変動の関連性を示唆するものである。しかし、蓋然性を持ってそれが診断マーカーになると判断し、かつ実務応用に利用するには、ストレス負荷時間やストレス自体の負荷強度を細分化し、microRNA発現への影響を更に詳しく検討する必要があると考えられる。加えて死後も比較的安定と考えられているmicroRNAではあるが、実務応用にはmicroRNAごとの死後経過に伴う変性変性について実験モデルを用いて確認する必要があると考えられる。
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