研究実績の概要 |
基礎的研究ではマウス皮膚損傷モデルを用いて経時的に損傷部を採取し,治癒過程で出現するオートファジーを免疫組織化学的,生化学的,および分子生物学的に検出してその出現様態を明らかにした.また,実務的研究では法医剖検例から採取した受傷後経過時間の判明している皮膚損傷試料について免疫染色および蛍光二重免疫染色によりオートファジーの検出を行った.基礎的研究と実務的研究の結果を総合しオートファジーの出現様態と受傷後経過時間との関連性を統計的に解析して既存の指標を用いた診断法と比較検討することにより,法医実務に応用可能なオートファジーを指標とする新しい受傷後経過時間判定法を検討した. 皮膚損傷部におけるオートファジーの時間的および空間的出現様態を検討した.Balb/c野生型マウスの背部皮膚に直径4 mmの打ち抜き損傷を作製したところ,オートファゴソーム形成のマーカーであるautophagosome membrane-bound form of microtubule-associated protein 1 light chain 3 (LC3II)の遺伝子およびたんぱく質発現が受傷前と比べて受傷後1日で有意に減少していた.一方LC3に直接結合してオートファジーにおいて選択的に分解される基質であるp62の発現は,遺伝子およびたんぱく質レベルで受傷前と比べて受傷後1日で有意に亢進していた.蛍光二重免疫染色においてLC3, p62, ならびにリソソームのタンパク分解酵素であるカテプシンDのタンパク質発現をF4/80陽性マクロファージに認めた.以上より皮膚損傷部では治癒過程初期に主にマクロファージにおいてオートファジーが抑制されてマクロファージが活性化し,創傷治癒に重要な役割を担っていることが示された.したがってオートファジーは受傷後経過時間判定における新しい指標となり得る可能性が示唆された.
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