脂肪細胞培養系の確立:本研究では脂肪細胞培養系の確立が不可欠であり、研究開始時にはこれまでにその培養法が確立されてきた株化細胞を使用することにより、脂肪細胞への分化誘導や分化した細胞の維持培養については特段の困難はないものと想定しており、薬物刺激や低温刺激などに対して安定的な細胞培養条件の設定などに検討が必要であることを予想していた。しかしながら、細胞株入手直後に凍結保存した細胞を解凍使用すると、細胞の生育状態が不良で、凍結保存の状態や培養に使用した血清の不適などの悪影響が推測された。そこで血清のロットを新しくするなどの改良を試みた結果、マウス由来の3T3-L1細胞の脂肪細胞への分化前の定常培養は比較的安定した細胞の状態を得ることができるようになった。しかし、脂肪細胞への分化誘導培養では十分な分化率や良好な生育状態を得ることが困難であった。この原因は明らかでないが、分化前の細胞密度などが細胞の分化能等に影響する可能性などが考えられた。 心筋細胞における内因性カンナビノイド発現状態の検討:上述のごとく、本研究では培養脂肪細胞の研究を中心とし、その検討から得られた知見を基に法医解剖で得られる組織試料について実務上の診断に応用できる情報を得ることを目的としたが、脂肪細胞培養系の確立が停滞したため、別に心筋細胞培養系を用いた研究を遂行した。心筋細胞の機能には様々なファクターが関与するが、私達がこれまで着目してきた内因性カンナビノイドシステムについて、その発現状況を検索した。使用したラット由来H9c2細胞ではカンナビノイド受容体CB1・CB2の発現はRT-PCRでほとんど検出されなかったが、ドーパミン等の刺激によりいずれもその発現が上昇する傾向が認められた。これはグリア系細胞の反応とは異なり、心筋細胞のカンナビノイドシステムの特徴を示唆するものである可能性が考えられる。
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