本年度は肝幹細胞から肝実質細胞への分化の際に重要とされる遺伝子群の中から、1分子ずつの削り込みを行った。初代培養後に三日月の形状をしていた口腔内線維芽細胞は、遺伝子導入後にその形態が変化し、一部は上皮細胞上の形態を示した。その中でもFoxa3、Hnf4aを導入した細胞では上皮細胞用の形態を示した。さらに導入する遺伝子の種類を変えることにより、形態や細胞分裂はさらに変化した。そのうち、形態学的に肝内胆管上皮細胞に近いものを取り出して、細胞生物学的な検討を行った。 その結果、サイトケラチン7染色を行ったが陽性となる細胞株は得られなかった。さらに、イムノブロッティングを行い、サイトケラチンの他に胆管上皮細胞の特性を検討したが、今回の研究では胆管上皮細胞としての特性を見せたクローンは得ることができなかった。しかし、陰性細胞のうち一部の細胞でアミラーゼ産生を認める細胞を見出した。この細胞は、胆管上皮細胞としてのトランスポーターの発現などは認められなく、また胆汁分泌作用も確認できなかった。したがって現状のままでは胆管細胞上皮細胞を作成したといえず、導入遺伝子のさらなる検討が必要と考えられたために、さらに導入遺伝子の組み合わせを変えるなど方法の見直しを行った。残念ながら本研究計画期間内に最終的な因子を確定できなかった。 しかし、類縁細胞である膵管上皮細胞への分化傾向のある細胞を得たとも考えられ、この遺伝子導入に近いコンディションをさらに検討した。今後は今回検討した因子以外の遺伝子導入を試みることにより、本来の目的に近い細胞を作成することが期待される。
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