慢性炎症は生活習慣病に共通した基盤病態である。これまでの研究によって、生活習慣病の慢性炎症プロセスにおいて、マクロファージが極めて多機能なエフェクター細胞として、時間・空間的にその機能をダイナミックに変化させ、病態形成に中心的な役割を果たすことを見いだした。例えば、腎臓において病態初期に集積するM1マクロファージは、炎症や組織破壊を推進するが、遅れて誘導されるM2マクロファージは、線維化を進めるとともに、炎症を収束させる。マクロファージの急性期応答については、詳細な分子機序が明らかにされているが、より長い時間相で生じる変化の制御機構はよく分かっていない。本研究では、長時間相におけるマクロファージの機能変化が、細胞時計と炎症制御プログラムのリンクによってもたらされると考え、その分子機序を明らかにすることを目的として検討を進めた。 まず培養マクロファージを刺激した際に時計遺伝子群の発現が変動することを見いだした。興味深いことにマクロファージの血清刺激とLPS刺激では時計遺伝子の律動が異なり、また、LPSによるシグナルが時計遺伝子群の発現律動に影響を与えることから、時計遺伝子による細胞時計の制御と炎症応答のシグナル機序の間に相互作用が存在することが示唆された。 さらにChIP-seq法によりBmal1の結合領域をゲノムワイドで検討したところ、時計遺伝子に加えて多数の代謝関連遺伝子と炎症関連遺伝子の制御領域に結合していることを見いだした。その結合領域はマクロファージのマスター転写因子であるPU.1との重なりが多く、マクロファージにおいては、マクロファージ特有の転写プログラムとBmal1とが相互作用している可能性が示唆された。以上の結果から、マクロファージでは細胞時計と炎症応答のプログラムが密接に連結していると考えられる。
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