心不全患者22人(男性18人、女性4人)から便検体の提供を受けた。まずは健常者12名(41.6 + 2.0歳)と年齢をマッチさせた心不全患者12名(47.4 + 2.8歳)との間でマイクロバイオーム解析を行った。心不全患者の重症度はNew York Heart Association分類でII~IV度(平均2.9 + 0.2度)、心エコーでの左室収縮率は20 + 2 %、BNP値は1061 + 239 pg/mLであった。便検体から細菌叢ゲノムDNAを抽出して、16S rRNA領域を増幅したPCR産物(16Sアンプリコン)を対象として配列解析を行い、菌種(OTU)数から菌種数の推定、系統樹組成から細菌叢全体構造の比較(UniFrac-朱座標、距離解析)を行った。その結果、心不全患者と健常者との間でOTUの数に有意差は無かったが、心不全患者と健常者のUniFrac距離は健常者どうしのUniFrac距離よりも大きく、心不全患者の腸内細菌叢に構成異常が生じていることが明らかとなった。とくに心不全患者ではFirmicutes門Clostridia網に属する細菌の割合が減少していた。さらに60歳未満の若齢心不全患者12名(47.4 + 2.8歳)と60歳以上の高齢心不全患者10名(73.8 + 2.8歳)とで比較すると、両群間でも省内細菌叢が異なっており、とくに高齢患者ではBacteroidetes門Faecalibacterium属の割合が少なく、Proteobacteria門Lactobacillus属の割合が多いことが明らかとなった。心不全における血行動態の異常が腸内細菌叢の構成異常を引き起こし、そのことが心不全をさらに進展させるという「心腸連関」という新しい概念の妥当性を指示する実験結果であり、さらに心不全においては加齢によっても腸内細菌叢が変容することが示唆された。
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